研究概要 |
シクロオキシゲナーゼ(COX)はアラキドン酸からプロスタグランディン(PGs)の合成経路を触媒する酵素である.最近,COX-2の発現は,発癌,細胞増殖,浸潤および転移に関与していると報告されている.また,ヒト前癌病変や癌組織・細胞で一酸化窒素(NO)合成酵素(NOS),特に誘導型NOS(iNOS)が発現している例が数多く報告されている.その部位は脳,食道,胃,大腸,肝臓,肺,膀胱,腎臓,乳腺,前立腺など,ほとんど全ての癌細胞に発現しており,一般にNOSがより強く発現しているほど癌の悪性度は高いことが知られている.そこで,口腔癌の細胞増殖および浸潤におけるCOX-2,NOの関与を調べるため,COX発現の低いヒトKB口底癌細胞にCOX-2遺伝子を導入し,in vitroとin vivoにおけるそれらの活性を親株と比較した.COX-2高発現クローン(KB-COX-2)と親株(KB-neo)の細胞増殖と浸潤能を,MTT assay, wound healing assay, invasion assayにより比較した.PGE2産生はELISA法にて測定した.MMPsの発現はgelatin zymographyにより,MT1-MMP, TIMP1, TIMP2, E-cadherin, iNOSはwestern blot法により検定した.in vivoモデルとして,ヌードマウスの皮下に細胞を移植することにより腫瘍増殖を計測し,病理組織学的に浸潤能を検索した.in vitroにおいて,KB-COX-2クローンはKB-neoクローンと比較すると増殖率に明らかな差はなかったが,PGE2産生量,細胞移動,浸潤能に有意な増加を認めた.また,KB-COX-2クローンではMT1-MMP, MMP2, MMP9, iNOSの蛋白発現の上昇が見られ,TIMP1, TIMP2, E-cadherin蛋白発現は減少した.in vivoにおいて,KB-COX-2クローンではKB-neoクローンに比べ,腫瘍増殖は有意に速く,また,局所浸潤がより著明であった,これらの結果より,iNOSから誘導されるNOがCOX-2発現に影響し,COX-2高発現は口腔癌の細胞増殖と浸潤能を促進すると考えられた.
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