BALB/c-bm/bmマウスは、先天的に短肢症を生じるマウスであるが、このマウスのうち、約10%のものが水平(左右)的交叉咬合を自然発症する。交叉咬合自然発症の原因として、(1)下顎骨の発育の大きさに左右差があるのか、(2)切歯による機能的側方偏位から交叉咬合が二次的に発症するのかを調べることを今年度の目標とした。 上記研究計画に基づき、初めにBALB/c-bm/bm系マウスのうち、水平的交叉咬合を発症した群(不正咬合群n=8)と、発症していない群(正常咬合群)の頭部軸位X線写真を撮影し上下顎骨形態計測を行い、下顎骨の発育による影響を調べた。下顎骨の大きさの左右差そして、下顎骨の前後的長さを計測し、位置関係および長さの不調和の存在を検討した。その結果、偏位側と非偏位側での比較において、不正咬合群では、非偏位側の下顎頭は偏位側よりやや前方に位置し、下顎長は非偏位側のほうが長い傾向を示した。 続いて、13週齢のマウスを用い、3週齢で水平的交叉咬合出現時に切歯を切断したもの(切歯切断群n=14)、切歯を切断せずに水平的交叉咬合になったもの(不正咬合群n=8)とを用いて、交叉咬合の発現度合いと、偏位の大きさについて比較した。その結果頭部軸位X線写真より、切歯切断群では、不正咬合群に比べ下顎前歯の側方偏位量は有意に小さかった。 以上より、成長期のBALB/c-bm/bm系マウスが水平的交叉咬合を発症する初発因子として、切歯による機能的な側方偏位が考えられ、その状態が継続することにより下顎骨の位置や、形態の左右差が助長される可能性が示唆された。 今後頭蓋骨の組織学的検討を予定しており、顔面頭蓋のgrowth siteといわれている蝶形骨間軟骨結合部の組織標本を作成し、軟骨結合部での比較を行う予定である。これについては現在すでに予備実験として各週齢での標本作成を開始している。
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