研究概要 |
【目的】 食欲抑制ホルモンとして発見されたLeptinは肥満・糖尿病などの生活習慣病発症において重要な役割を果たすと考えられてきたが、Ducy P.,Takeda S.らは脂肪組織で作られたLeptinが視床下部に存在するreceptorに結合し、そのシグナルは交感神経を介して骨リモデリングに影響を及ぼすことを報告した。Leptinは交感神経の活動を上昇させ、その影響で骨形成が抑制され骨量が減少するといわれており、このような状態は歯槽骨にも出現し、歯の移動における歯槽骨リモデリングにも影響を及ぼすことが考えられる。そこで中枢性骨代謝制御機構が矯正刺激に対する歯槽骨代謝に及ぼす影響を検討する目的で、歯の移動実験を行った。 【材料および方法】 単一劣性突然変異遺伝子によりLeptin受容体異常を示す雄性Wistar fatty rat(武田薬品工業より分与)の上顎両側切歯を固定源として、約30gfのTi-Ni closed coil springを用いて、上顎右側第一臼歯を近心移動させた。歯の移動後1週でラットを屠殺し、歯の移動量を測定し、臼歯歯周組織の検体採取を行い、組織切片を作製し、Leptinが歯槽骨リモデリングにおよぼす影響を検討した。 【結果】 上顎第一臼歯の近心移動1週間後において、Leptin受容体変異遺伝子のヘテロ接合体では、野生型と比較して、歯の移動距離が有意に増加していた。 【考察】 Leptin受容体変異動物において矯正力負荷時の歯の移動スピードが速くなったことから、Leptinシグナルはメカニカルストレスに対する歯槽骨・歯根膜代謝に影響をおよぼすことが考えられる。このことから、Leptinは中枢性の骨量調節機構に関与するのみではなく、末梢におけるメカニカルストレスにも関与することが示唆された。
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