【目的】成長期の下顎頭の炎症や損傷、顎関節内障や変形性顎関節症などの顎関節症により、患側下顎骨の発育不全や顎運動障害が起こり、その結果小下顎症や下顎骨側方偏位を生じることがある。その治療には機能的矯正装置が用いられることがあるが、その効果については不明である。本研究では、成長期マウスに片側下顎頭切除術を施し、下顎骨成長に対する影響を検討するとともに、機能的矯正装置の治療効果を形態計測学的、組織学的に解明することを目的とした。 【試料および方法】生後3週齢のC57BL/6J雄性マウス90匹を、片側下顎頭切除術を施した切除群、切除後に下顎骨前方誘導装置を装着した装置群、sham opeを施した対照群の3群に等分した。術後4週時に背腹側方向および側面頭部X線規格写真撮影による形態計測学的検討を行った。また、切除部におけるII型、X型コラーゲン、Sox9の発現を免疫組織化学的に検討した。 【結果】切除群において患側下顎骨は健側および対照群と比較して劣成長を呈し、患側への有意な側方偏位が認められた。一方、装置群では患側下顎骨が健側と同等に成長促進され、下顎骨側方偏位は改善された。切除部の組織学的所見として、切除群では不規則な形態の下顎頭が、装置群では対照群に近い形態の下顎頭の再生が認められた。また、切除部の免疫組織化学的染色により、切除群ではII型、X型コラーゲン、Sox9の発現低下が明らかとなったが、装置群は対照群と同程度の発現が認められた。 【結論】下顎頭の損傷に起因した下顎骨の劣成長は、機能的矯正装置による良好な下顎頭の再生と、これに続く下顎頭成長能力の賦活化によって補償され得ることが明らかとなった。
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