研究概要 |
ダウン症候群は先天性の遺伝子疾患の中では最も多い疾患の一つであり、歯周疾患に罹患しやすいことが報告されている。現在まで本症において、なぜ歯周疾患に罹患しやすいのかという分子メカニズムは明らかになっておらず、この原因究明は、単に歯周疾患罹患性を明らかにするのみならず、その予防、治療法の開発に役立つと考えられる。本研究ではダウン症において歯周疾患易罹患性に関わる遺伝子群の同定と、その分子メカニズムを明らかにすることを目的とした。 我々は、ダウン症患者由来線維芽細胞株および健常者由来線維芽細胞株の各2種類を用いて、炎症性サイトカインであるインターフェロンに着目し、その応答性につき検討をおこなった。インターフェロンα/βおよびインターフェロンγはそれぞれIFNAR1/R2およびIFNGR1/R2をその受容体として用いている。ダウン症由来細胞では、このうちIFNAR1/R2およびIFNGR2の発現が増強し、この3種の受容体は21番染色体に存在することをデータベースから確認した。そこでインターフェロンα/βおよびインターフェロンγの刺激が、ダウン症由来細胞で増強される可能性が示唆されることから、各種インターフェロンによって誘導される炎症性サイトカイン(IL-6,TNFα,IL-1β等)の発現につき、RT-PCR法及びELISA法にて解析を行った。ダウン症由来細胞では、インターフェロンγ刺激によって、IL-6の分泌誘導が促進されることを確認したが、TNFα,IL-1βの産生は、コントロールと比較してほとんど変化が認められなかった。さらにこれらの細胞では、インターフェロン刺激によるMAPKおよびSTAT1のリン酸化が、コントロール細胞と比較して増強されることを明らかにした。以上の結果から、ダウン症患者ではインターフェロンに対する応答性の亢進により、炎症反応が増強されることが示唆された。
|