研究概要 |
唾液レベルのフッ素がエナメル質の脱灰抑制-再石灰化促進に及ぼす影響を明らかにすることを目的に,ヒトエナメル質切片をフッ素非含有およびフッ素含有脱灰-再石灰化液に浸漬し,その後に溶出するリン濃度を指標として,エナメル質中ミネラルの喪失および獲得率を計測し,両者で比較検討することとした。実験手法を以下のように規格した。 前準備として歯を頬舌的に切断し,厚さを各150μmに調整後,エナメル質以外をネイルバニッシュにて被覆する。その後,各切片のエナメル質の面積を画像解析装置にて計測し,この面積と切片の厚さより浸漬されるエナメル質の総体積を求める。次にエナメル質切片12枚を1組としてプラスチックバスケット上に並べ,サンプリング前に1時間蒸留水に浸漬する。脱灰液はCa(NO_3)_2 2.0mM,KH_2PO_4 1.2mM,acetic acid 50mM,10M NaOHにてpH4.8に,再石灰化液はCa(NO_3)_2 2.0mM,KH_2PO_4 1.2mM,KCL 130mM,Tris/HCl 60mM,10M NaOHにてpH7.0に調整する。それぞれの溶液はフッ素非含有と0.05ppmフッ素含有のものを用意し,これら溶液をバイアル中に10ml入れ,pHサイクリング装置を用いて22時間中に1時間×3回の脱灰を繰り返し,脱灰以外の時間には再石灰化液中に浸漬する。サンプリングは脱灰,再石灰化の各工程で行う。得られたサンプルのリンの定量にはChenらの比色法に従って行い,すべてのミネラルはハイドロキシアパタイト中に存在すると想定し,ミネラルの喪失率と獲得率を得られたリン量と溶液に浸されたエナメル質の体積より算出する。 この実験手法を用いたこれまでの永久歯での研究結果より,0.05ppmという極低濃度であってもフッ素を含有することにより,有意に脱灰を抑制し,再石灰化を促進することが確認された。今後乳歯についても同様に行い,両者の反応性の違いを比較する予定である。
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