研究概要 |
【目的】歯周病は、糖尿病患者で多くみられる炎症性疾患である。我々はこれまでに、歯周病細菌であるPorphyromonas gingivalis(Pg)に対する血清IgG抗体価の上昇は,CRP値の上昇,頚動脈内膜中膜の肥厚,そしてアルブミン尿の出現といった冠状動脈性心疾患の発症予知因子と有意に相関することを報告した。今回,動脈硬化進行の危険因子のひとつである脂質代謝に対するPg感染が及ぼす影響を検討するため,歯周病細菌に対する血清IgG抗体価と中性脂肪(TG),HDL-コレステロール(HDL-C),LDL-コレステロール(LDL-C),および総コレステロール(T-C)の値との相関を比較・検討した。 【材料および方法】1.被験者:食事療法とSU尿素剤のみで血糖をコントロールされ,腎疾患,肝疾患,および明らかな動脈硬化症を有していない2型糖尿病患者(平均年齢:60.8歳,平均HbA1c:7.1%,平均BMI:23.3kg/m^2,平均血圧:130/76mmHg)の131名とした。2.血清IgG抗体価の測定:PgならびにActinobacillus actinomycetemcomitans Y4(Aa)の超音波破砕抗原に対する血清IgG抗体価をELISA法にて測定した。Pgは,血清型の異なる2菌株であるFDC381株(血清型A)と,SU63株(血清型b)を用いた。3.TG, HDL-C, T-Cを血清検査会社にて測定した。なお,LDL-Cは,Friedewaldの方程式を用いて算出した。4.統計学的解析は,Statview version 5.0を用い,相関係数(r)をSpearman's Rank testで求めた。危険率(p値)5%以下を有意とした。 【結果】1.TGとHDL-Cholは,Pgに対する血清IgG抗体価と相関がなかった。2.LDL-CholとT-Cholは,Pgに対する血清IgG抗体価と有意な相関があった(LDL-CholとPg FDC381間:r=0.191,p=0.029;LDL-Cho1とPgSU63間:r=0.174,p=0.02;T-Cho1とPg FDC381間:r=0.256,p=0.004;T-CholとPg SU63間:r=0.204,p=0.02)。3.Aaに対する血清IgG抗体価は,TG, HDL-Chol, LDL-Chol, T-Cholのいずれとも相関がなかった。 【考察】歯周病菌Pgによる感染が,2型糖尿病患者の脂質代謝とりわけLDL-Cholの上昇に関与する可能性が示唆された。酸化LDL-CholはCRPと結合し,マクロファージはこの複合体を貪食することで泡沫細胞化することが知られている。歯周病によってCRP値やLDL-Chol値が上昇するという事実は,歯周炎と動脈硬化の関連性を機序の面から考察する上で極めて興味深い結果である。
|