本研究は、歯周組織をターゲットとした再生誘導アブローチの解析を目的とした。すなわち、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)の放出をコントロールするゼラチン粒子と、再生の場を提供するコラーゲンスポンジを複合させた再生誘導デバイスにより、歯周組織の再生を評価した。21世紀の臨床医療に有望なサイトカイン療法において、治療法の開発と同時に、その再生機序を明らかにすることは、さらなる新治療の開発や副作用の防止に有用である。 本年度は、デバイス理入後のビーグル犬顎骨試料の非脱灰連続切片を作製して、エックス線解析や走査電子顕微鏡(SEM)による微細構造の解析を行った。その結果、bFGF徐放群における欠損周囲からの新生骨の形成が著しく、欠損内へ骨梁が伸張している様子が観察された。また、硬組織ラベリング法を用いた多重蛍光観察によって、骨やセメント質の再生過程を時系列で解析した。その結果、骨欠損周囲から中心部に向けた放射状の蛍光や、セメント質内の線状の蛍光が観察されて、新生骨や新生セメント質が経時的に形成される様子が鮮明に観察された。また、骨の形成速度もbFGF未処理群と比較してきわめて早く進行し、新生骨のリモデリングが早期に誘導されることが明らかとなった。 一方、昨年はアメリカの歯科雑誌Dent Clin North Amと、日本の英文科学雑誌Hum Cellの2誌から総説の執筆依頼があった。前者ではTissue Engineeringによる歯周組織再生について、後者では歯の再生についてそれぞれの研究領域の現状と将来展望についてレビューする機会に恵まれ、少なからず反響を得た。 今後は、歯と歯周組織をひとつの複合組織(歯一歯周組織複合体:tooth/periodontal complex)として捉えて、両者を包括的に再生させるアブローチの開発を行う予定である。
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