歯周病原性細菌Actinobacillus actinomycetemcomitans(A.a菌)は、免疫担当細胞や上皮細胞に感染して、各種毒素によりアポトーシスを誘導することが知られている。本研究では、A.a菌が産生する細胞膨化致死毒素(Cytolethal Distending Toxin ; CDT)に注目し、CDTが細胞障害を誘導するために必要と考えられる細胞への結合・内在化に関する機序について、細胞分子生物学手法を用いて解析した。CDTは、CdtA、CdtB、CdtCの3つのサブユニットから構成され、活性サブユニットであるCdtBが宿主細胞の核内へ移行し、染色体を傷害することで細胞分裂周期をG2期で停止させた後アポトーシスを誘導する。各サブユニットのリコンビナントタンパクを精製・蛍光標識して蛍光顕微鏡で観察したところ、CdtBが細胞膜を移行するためには他のサブユニットが必要であり、CdtBの内在化はBrefeldin Aにより細胞内輸送を停止させると阻害されたが、CDT各サブユニットの細胞膜上への結合は阻害されないことが観察された。また、CdtAとCdtCは細胞内膜を移行しなかった。CDTの細胞膜レセプターを検索するため、薄層クロマトグラフィーを用いてCDT各サブユニットと結合する糖脂質を検索したところ、CdtAはGM1、GM2、GM3、Gb4と、CdtBはGM1、GM2、Gb3、Gb4と、CdtCはGM1、GM2とにそれぞれ結合した。続いて各ガングリオシドを組み込んだリポソームを作成し、CDTと吸着実験したところ、GM3は濃度依存的にCDTの細胞障害を阻害した。GM3と結合するサブユニットはCdtAのみであったことから、CDTのレセプターとしてGM3が関与していることが示唆された。
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