前年度作成した抑制プロトコール試案(以下RP)の信頼性・妥当性を検証する目的で、都内にある700床規模の病院のリハビリ病棟においてRPを導入し、その前後(それぞれ60日間)における抑制施行の実態に関する比較・検討を行った。評価項目は抑制適応者の特性、割合、抑制具の変化等である。対象者はRP導入前20名(男性12名、女性8名;平均70.7歳)、RP導入後20名(男性14名、女性6名;平均71.6歳)であり、RP導入前はBarthel Index(以下BI)=44.5、Functional Independence Measure(以下FIM)=10.8であったのに対し、導入後はBI=53.6、FIM=14.1といずれも導入後に上昇がみられた。また入院患者に対する抑制施行患者の割合は、導入前は19.7%、導入後は14.6%と導入後に低下がみられた。導入前後で対象者の認知能力に差がなかったことやRP導入後に転倒等のインシデントが発生していないことを考慮すると、RP導入前は対象者のADL能力が、抑制の判断基準にステレオタイプに影響を及ぼしていたことが伺えた。一方使用された抑制具は、導入前は「胴体抑制;床上や車椅子でのタッチガード」や手指の自由を奪う「ミトン」が81.7%占めていたのに対し、導入後は59.6%と統計学上有意(p<0.05)に減少し、逆にセンサーマット等、対象者の身体を直接拘束しない抑制具の増加がみられた。回避できない抑制については、RPの実践が廃用性二次障害のリスクを軽減させる一助になることが示唆された。 一方、抑制施行に対する看護師の認識の変容を明らかにし、今後のRP改善に向けた示唆を得るべく身体面、精神面、治療・病態面、環境面、リスク、手続きをカテゴリーとする39の質問項目で構成されるリッカート式質問紙調査をRP導入前後に行った。その結果21名(有効回答数91.3%)のスタッフから回答が得られ(看護師暦平均;12.3年)、RP導入前より抑制施行への認識は概ね高まっていたが、カテゴリー別では、身体面、リスク、手続き等、RP導入時の「アルゴリズム」に記載されている内容の一部についての認識は低下していた。看護スタッフの「適切な抑制施行への継続的認識」という点に関しては、今回使用したRPの今後の課題となった。
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