臨床現場において看護師は、患者と関わりつつその場の状況を見極めて、よりその患者に相応しい実践を行っている。本研究では、こうした看護実践の為され方の特徴を、それが為されているがままに濃やかに記述し、この記述の内に専門家の知恵としての「実践知」がいかに働きだしているのかを明らかにすることを目的とした。 本年度は、6名の対象者それぞれに対して60〜90分の個別インタビューを行うとともに、4回目の「看護経験を語る会」と称するフォーカス・グループ・インタビューを実施した。語りの内容は了解を得て録音し逐語録とした。逐語録は、看護師が自らの実践(看護行為)をどのように経験しているか、何に突き動かされて実践をしているのか、という視点から解釈した。 患者との日常的な関わりの中で、臨床看護師たちは、観察することによって一つひとつの情報を得てそれを判断するという段階的な把握の仕方をしているのではなくて、その時必要とされる何かが患者の側から「入ってくる」「見えてくる」という感覚を通して、患者の状態を理解していることが見出せた。看護師たちは、この相手の側の何かが「入ってくる」「見えてくる」感覚と同時に、その何かを「感じつつ考え、考えつつ感じる」という経験をしていた。また、この何かは、患者の現在の状態にとどまるものではなくて、その先の変化までもが「イメージ」「映像」として看護師の感覚・思考に浮かび挙がってきていた。さらに、「入ってくる」「見えてくる」という感覚は、看護師の行為とともに経験されていた。患者と直に関わる中で、あるいは相手に関与していく中で見えてくるのであり、見えてくることに気づく手前で既に、看護師たちはその状況に応じた行為を営んでいた。つまり、「見えてくる」ということは、見えてくる何かに対して何らかの対応が「できる」という実践可能性とともに経験されているのである。実際に身体の動きが伴わなくても、どうすれば良いのかを身体的に既に分かっているからこそ、起こっていることの本質が見えてくるのである。 今後は、実践知の成り立ちに見て取ることのできた「見えることと行うこと」の関係を、具体的な事例の記述を通して考察していく予定である。
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