本大学ならびに研究協力施設双方の倫理委員会の承認を得て、調査を開始した。現段階で研究同意の得られた対象者5名のインタビューが終了しているが、対象者の健康状態や施設側の状況により、当初の目標である10〜15名には未だ達していない。次年度も引き続き対象者へのインタビューを行う予定である。 研究者は、対象者が語ること自体の意味を探る目的から、恣意性を持たない非構成的面接を目指した。その結果、対象者は現在おかれている状況において想起する、最も関心の高いできごとを自由に語っていた。過去の出来事であっても、現疾患への影響の有無にかかわらず、これまでの自己にとって重要度の高い内容を話す傾向があった。また入院生活という状況下では自明のことであるが、対象者は自己の「からだ」に起こっている変化を中心に話し、治療・看護を受けるその体験を自己の「からだ」全体で受けとめていた。そこで生じる治療の効果・副作用を含めた変化には、多様な驚きや不安の感情を有していた。今後、患者の身体性、また医療者にとっては患者という他者の身体性について考察を進めていく必要性が示された。 また、対象者の感情変化は、研究者との面接後に意図的に問わなかったが、「話せてよかった」「誰かに聞いてほしいと思っていた」などの感想が聞かれた。特に2回目の面接において、前回の面接内容について上記のように述べることが多く、その間には数日から1週間の日程を要しているが、その間対象者が面接内容や語った自己のありようについて振り返っているさまがうかがえた。このことは、言語化することによって体験を内面化する、再構築するというナラティブの原則にふれる結果であると考えられる。 上記はインタビュー5名からの概観であり、今後はインタビュー内容を英訳し、言語分析ソフトにかけ、既存研究との比較を行うことが課題である。
|