本年度は、事例検討会を主催し、実際に対話的リフレクションを意識したアプローチの試みを始めた。運営方法では対話を意識し、実際的な問題解決にこだわらず、看護師個々の成長を目指したリフレクションがねらいであることを強調し、リラックスした雰囲気と対等の参加者関係の確保に努めた。対等な関係を優先させるために、参加者を募る際に組織的な力を極力排除した。職場の人間関係を引きずらないことは、先入観なく他の参加者の発言を受け入れること、忌憚の無い意見を述べられること等の安全な場所を提供することに貢献した。しかし一方で、参加に際して職場の支援が得にくく、物理的なスケジュール調整の困難とその調整の重要性の問題があらためて浮かび上がった。特に、今年度は診療報酬改定で新設された7対1入院基本料により、急速な看護師確保困難が生じた影響等があり、臨床現場で看護師にかかる負担は総じて強まるなど、インフォーマルな事例検討会への参加に制約が大きいようであった。 対話的リフレクションの効果として、参加者からのヒアリングでは、モデルとなる他者との対話で、他者が類似の事例を想起し自身のリフレクションを進めながらそれを語ることで、聞いた他者は、対象者である患者さんのとらえ直しや患者さんの理(ことわり)が見え、看護実践を評価する力が深まるなど、リフレクションが促進されていることがうかがえた。それにより、直接的な解決方法をあえて求めていないにもかかわらず、解決の糸口が見えて来るという効果もうかがえた。今後は、そうした経験や過程の詳細な分析を行う必要がある。来年度は、引き続き事例検討会によるアプローチを実施し、データを収集し分析を行う予定である。 なお、科学研究費補助金の多くは、事例検討会の運営の為の費用、検討およびデータ整理の為の物品費およびデータ化の為のテープ起こし代金等に充てられた。
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