遷延性意識障害患者における生活活動性を高める摂取エネルギー量を検討することを目的として、平成16年度は経管栄養により栄養摂取している意識障害患者の栄養評価を実施した。日本脳神経外科学会の「遷延性植物状態」基準に準じた意識障害患者を対象に身体計測値、血液検査値、および間接熱量測定などを実施し多角的に検討した結果、意識障害患者の82.6%は低栄養のリスクが高いことが明らかになった。低栄養は免疫能が低下し、易感染・呼吸機能低下を惹起することから、肺炎・褥瘡などの合併症のリスク要因となるが、意識障害患者がこれらの合併症を発症すると生命の危機に陥ることが多い。そこで、平成17年度は意識障害患者の栄養状態および身体機能と、肺炎、褥瘡、尿路感染の発症に関連する要因の検討を行った。医療機関に入院している意識障害患者58名を対象に、身体計測、血液検査、間接熱量測定を実施した。また、呼吸・栄養摂取方法(経鼻または胃瘻)・排泄方法、眼瞼結膜・喘鳴・浮腫などの臨床症状、さらに関節拘縮の強度について評点化を行い、これらの項目と発症との関連について分析した。その結果、1)意識障害患者の平均年齢は75.8±15.0歳(Mean±SD)、一日の栄養摂取カロリー量は994.8±180.6kcal/日であった。過去3ヵ月における合併症発症率は、肺炎が41.4%、褥瘡24.1%、尿路感染32.8%であった。2)肺炎発症者は非発症者に比較して上肢の関節拘縮が強度であり(p<0.01)、3)褥瘡は、肩甲骨下部皮下脂肪厚(%SSF)と関連がみられ(p<0.01)、血清アルブミン値よりむしろ%SSFが同姓・同年齢の健常者の80%以下になると発症リスクが高くなることが明らかになった。これまで、意識障害患者の過剰栄養が留意されてきたが、本研究において低栄養のリスク者が多く、合併症発症にも影響していることが示唆されたことから、意識障害患者の栄養管理には適正な摂取カロリー量の算出と栄養評価指標の開発が今後の課題であると考える。
|