今年度は、まずハイリスク妊婦をめぐる現状を包括的に探索することを目的として、既存文献及び、Websiteで公開されている情報の収集を行った。その結果、Web上では、個人のホームページという形態で妊娠中の長期入院に関する体験が語られてはいるものの、米国の当事者によるピアサポートグループのような組織としてつながりを持ちながら活動するグループの存在は見当たらなかつた。既存文献においても、数年前よりは様々な状況下における当事者の体験は徐々に明らかにされているものの、そこから発展したケアへの取り組みについての記述はいまだ見られていなかった。 又、米国のハイリスク妊婦に関するマネジメントを学ぶ目的として、米国におけるNational Center of Excellence In Women's Healthの一つであるオレゴンヘルスサイエンス病院のウィメンズヘルスセンター内に開設されているMidwife ClinicやHigh Risk Clinicおよび産科病棟を見学し、実際に診療にあたる医師や看護職と意見交換を行った。そこで明らかになったのは、アメリカにおいては身体的にハイリスクであると称される女性は、若年やアルコール、ドラッグ、DVといった社会的にもハイリスクの要素を多分に含んでいる割合が圧倒的に高いこと、又、多民族国家である故に、好発する疾病に人種間で差があることなどであった。これは、妊娠年齢の高齢化や不妊治療に伴ってハイリスク状態になることが多い日本との大きな違いであった。 来年度は、今年度の結果を受けて、現在日本にある高度周産期医療センターで展開されているケアの実際とそこに存在する問題を臨床の看護職や当事者の語りをデーターとして分析し、文化的背景も考慮したハイリスク妊婦をサポートするケアの方向性についての指針を示す予定である。
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