長崎市の斜面市街地に居住する住民の外出にかかる身体的な負担状況を把握するために、様々な年齢層の住民を対象として歩行実験および意識調査を行なった。歩行実験は、長崎市の代表的な斜面市街地であるJ地区において、階段を含む急勾配道路と異なる勾配の道路、平坦な道路の各50メートルの実験コースを3コース設定し、実際にそのコースにおいて地域住民125名(男性47名、女性78名)を被験者して身体的影響の測定を行なった。対象の年齢層は20歳から84歳代までであった。歩行実験の結果、勾配が急であるほど、年齢に比例して収縮期血圧、脈拍数の上昇率が大きく、運動強度60%以上の者の占める率が高くなっており、身体的な影響が大きくなることが定量的に明らかになった。また、同じ対象におこなった意識調査においては、当初恒例居住者の活動や外出に対する意欲は年齢が高くなるにしたがって低くなると予想したが、後期高齢者の意欲は前期高齢者と比較して必ずしも低くないことが明らかとなった。QOL指標における精神的健康は、前期高齢者が後期高齢者よりも無力感や孤独感、不安感を感じる割合が高くなっていた。また、社会活動の参加状況は、買い物などの「個人的活動」は前期高齢者と後期高齢者には差がみられなかった。しかし、地域行事やボランティア活動などの「社会参加・奉仕活動」と「学習活動」においては、前期高齢者よりも後期高齢者のほうが活動していると答えた割合が高くなっていた。歩行実験の結果とあわせて考えると、斜面地は身体的には高齢なるほど負担をかけているが、精神的な意欲は高齢になっても維持されていると考えられた。17年度は、高齢になっても負担なく地域で生活できるための具体的な方策や支援について考察し、提言としてまとめていく計画である。
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