長崎市の斜面市街地に居住する住民の外出にかかる身体的な負担状況を把握するために、様々な年齢層の住民を対象として歩行実験および意識調査を行なった。初年度の調査では、歩行実験を行った。長崎市の代表的な斜面市街地である地区において、階段を含む急勾配道路と異なる勾配の道路、平坦な道路の実験コースを3コース設定し、実際にそのコースにおいて地域住民125名を被験者として身体的影響の測定を行なった。対象の年齢層は20歳から84歳代までであった。歩行実験の結果、勾配が急であるほど、年齢に比例して収縮期血圧、脈拍数の上昇率が大きく、運動強度60%以上の者の占める率が高くなっており、身体的な影響が大きくなることが定量的に明らかになった。同じ対象におこなった意識調査では、後期高齢者の意欲は前期高齢者と比較して必ずしも低くないことが明らかとなった。QOL指標における精神的健康は、前期高齢者が後期高齢者よりも無力感や孤独感、不安感を感じる割合が高くなっていた。また、社会活動の参加状況は、買い物などの「個人的活動」は前期高齢者と後期高齢者には差がみられなかった。しかし、地域行事やボランティア活動などの「社会参加・奉仕活動」と「学習活動」においては、前期高齢者よりも後期高齢者のほうが活動していると答えた割合が高くなっていた。 次年度の調査では、長崎市内の斜面地、平坦地、新興住宅地の65歳以上の住民に質問紙調査を行った。QOL尺度では、新興住宅地に住む高齢者が最も高値であり、その中でも精神的健康観が高くなっていた。また、近隣との関係が良好である地区においてQOLが高いことがわかった。今後さらに分析をすすめて高齢者の居住地域と精神的な健康との関連を明らかにしたい。
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