前年度は文献から養育の肯定的感情に関連する項目や概念について検討したが、今年度はより実態を反映するために、現在育児中の母親からのグループインタビューにより、養育に対する肯定的感情を把握することとした。インタビューは、A市保健センターで行なわれている1歳の子どもを持つ母親対象の育児教室にて、インタビュー協力の依頼を行い、了承の得られた母親を対象に実施した。また、A市子育て支援センターで行なわれている1〜3歳児の子どもを持つ母親を対象とした子育てセミナーの参加者に対しても同様に協力依頼を行い、実施した。グループインタビューは4〜6名のグループで5グループ、各グループ1時間程度実施した。各グループインタビュー内容は了承を得て録音し、書き起こしたものをデータとした。データから養育の肯定的感情を表す言葉や項目、またそれを引き起こす状況などを取り出し、整理して分類した。 その結果、養育の肯定的感情に関連する項目として、子どもの成長や子どもに頼られているという実感が多くあげられていた。これらは自分が育児をしてきた結果として母親に客観的事実としてとらえられており、そのことが母親の自己の存在価値を高めること、すなわちSelf-Esteemの向上につながっているのではないかと考えられた。しかし、母親の状況が育児や生活に精神的、時間的余裕がなかったり、周囲に育児の協力者がいなかったりした場合には、これらの肯定的な感情を自覚しにくいことも明らかになった。さらに、子どもの成長が目に見えにくい、またコミュニケーションがとりにくい乳児期初期については、養育の肯定的感情を実感することは比較的少なかった。 これらのグループインタビューの結果と文献検討の結果を踏まえ、養育の肯定的感情に関連する項目を選定し、暫定的養育肯定感尺度を作成した。来年度はこの尺度についての信頼性・妥当性の検討を行なう予定である。
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