研究実績の概要 |
本研究では、発話に非流暢性が頻繁に生じる成人吃音者と外国人の日本語学習者を対象に、スピーチ・シャドーイング(音声を聞きながら、同じ発話を口頭で繰返す)訓練を短期集中的に行い、その効果を多面的に検証することを目的とした。この目的を達成するために以下を行った。1)実験参加者として、成人吃音者と、言語未習熟により非流暢性が生じる日本語が母語でない日本語学習者とし、約1ヶ月間、毎日10分程度のシャドーイング訓練を実施した。2)訓練前後に非流暢性の頻度、韻律的特徴、心理学的指標などを計測した。3)非侵襲的に磁気共鳴画像装置 (MRI) を用い、脳領域間の解剖的・機能的結合度を調べるために、拡散テンソル画像 (diffusion tensor image,DTI) と安静時脳活動を計測した。 日本語学習者20名で実験を行い、17名が全スケジュールを完遂した。さらに、日本人吃音者5名を対象に、自宅での短期集中的シャドーイング訓練を実施した。自覚評価では、楽しく訓練ができ、心理的な改善と発話の改善が得られ、継続訓練可能であることが明らかになった。発話および心理面で著しく改善が見られた1症例の結果を学会で発表し、査読付き症例報告論文として出版した。 関連する研究として、朗読中とシャドーイング中の発話の速度を計測した。その結果、吃音者の朗読は症状のある部分を除いても非吃音者より遅い(すなわち、非吃音者と異なる)発話をしているが、シャドーイング中は非吃音者と同じ(モデル音声と同じ)話速となっており、シャドーイング訓練が吃音者においても正常な発話リズムの学習に有効であるメカニズムの一端を明らかにした(国際学会にて発表)。 脳MRIについては、半数の被験者のデータを標準的な方法を用いて分析したが、有意な結果が得られなかったため、今後、データ分析方法を再検討し、全員のデータで解析する。
|