現在の星形成研究において「なぜ,フィラメント状分子雲の幅が約0.1pc になるのか?」という問題に脚光が集まっているが,それに対する満足のいく解答はまだ無い.磁場の効果を考慮しない研究ではこれに反する答えが出るため,磁場の効果の重要性を多くの理論研究者が認識している.本研究員は,「磁場を含む分子雲の中でどのようにしてフィラメント状分子雲が形成されるのか?」という問題に理論・観測の両面から取り組み,フィラメントの幅を決める物理を研究した.特に大きな線密度のフィラメントの内部で磁場が乱れた乱流状態にあるかどうかを見極める.0.1pcの幅のフィラメントの成因を理解することで,星形成の開始条件を解明し,銀河円盤部における星形成過程の一般論を構築することを目指した. 具体的な成果として,フィラメント状分子雲周辺の磁場構造を観測するプロジェクトに参画し,実際にハワイJCMTサブミリ波望遠鏡を用いて観測を進めた.この内容については,解析を進める予定であり,論文化を目指している.また,自身がプロポーザルを提案して受理された野辺山45m鏡を用いた観測結果についての解析をまとめ,論文として発表した.また,フィラメント状分子雲の分裂過程を統計的に記述する手法についても発展させ,分裂して生まれた分子雲コアの角運動量の分布がどのようになるかという点も共同研究を行った. また,この研究テーマに関連する研究について国際会議を開催した.これは名古屋大学にて開催したもので,参加者は約百名であり,海外からの参加者の方が日本人を上回る規模であった.この会議において,これまでの世界的研究をまとめ,今後の研究の方向性について議論を行った.
|