研究課題/領域番号 |
16F16028
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
青木 勇二 首都大学東京, 理工学研究科, 教授 (20231772)
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研究分担者 |
JHA RAJVEER 首都大学東京, 理工学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-07-27 – 2018-03-31
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キーワード | 2次元超伝導体 / トロポジカル物質 / ワイル半金属 / 巨大磁気抵抗 |
研究実績の概要 |
ファンデルワールス積層構造を内包した強い2次元性を持つ2つの化合物系(1)BiS2系超伝導体と(2)ダイカルコゲナイドMX2系に着目して、特異な電子状態の究明と探索を進めた。純良単結晶試料を育成しながら、それを用いた高精度物性測定を行い、以下の成果を得た。(1)BiS2系超伝導体では、ブロック層内の希土類元素を変えた単結晶の合成をすすめつつ、結晶構造の元素置換依存性などに焦点を当てた実験を進めた。(2)ダイカルコゲナイドMX2系では、WTe2を中心に調べた。この物質は、角度分解光電子分光実験により「ワイル半金属」(トロポジカル物質の一種)に属するものと考えられている。残留抵抗比が1,000以上となる世界最高レベルの高純度単結晶の育成に成功した。低温磁場中で、ほぼ磁場の2乗に比例し、9Tにおいて1,500,000 %にも達する巨大磁気抵抗効果が観測されたが、この振る舞いにより、本物質内に電子と正孔が同数存在し(半金属の証拠)、両者の易動度が極めて大きい値を持つことが確認された。抵抗の磁場依存性には明瞭なシュブニコフ‐ド・ハース量子振動が観測され、ここからも単結晶試料が高品質であることがわかる(フーリエスペクトルには4つのピークが現れており、電子と正孔のフェルミポケットがそれぞれ2つづつあることに対応)。さらに、電気抵抗の磁場中異方性測定を丹念に進め、スケーリング則が成立していることを示す兆候を得た。この特性は、今後の精密測定により検証する予定である。得られた純良単結晶試料を用いて、国内外における多方面からの共同研究を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、2つの化合物系(1)BiS2系超伝導体と(2)ダイカルコゲナイドMX2系において、純良単結晶試料を育成し、それを用いた高精度物性測定を行うことにより、特異な電子状態の究明と探索を進める実験計画となっている。(1)BiS2系超伝導体では、目標としていた重希土類元素を含む化合物の単結晶を合成することが当初の予測に反し困難であることがわかったが、他のBiS2系超伝導体に関する実験を進め、その成果を1編の論文として出版することができた。(2)ワイル半金属であると考えられるダイカルコゲナイドWTe2では、Jha氏が育成に成功した世界最高レベルの高純度単結晶(残留抵抗比が1,000以上)を用いて、量子振動の観測、電気抵抗の磁場中異方性測定を行うことができた。さらに、当初予想していなかった「スケーリング則が成立していることを示す兆候」を得ることができた。これは、低温磁場中で1,500,000%にも達する異常な巨大磁気抵抗効果の発現機構を明らかにしていく上で、重要な指針を与えるものと考えられ、非常に重要な成果である。
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今後の研究の推進方策 |
平成28年度に得られた成果と課題を考慮しつつ、さらに発展させる方向で、強い2次元性を持つ2つの化合物系(1)BiS2系超伝導体と(2)ダイカルコゲナイドMX2系において、特異な電子状態の究明と探索を進める。ワイル半金属の可能性が高いダイカルコゲナイドWTe2では、Jha氏が育成に成功した「量子振動が現れる高純良単結晶」を用いた電気抵抗の磁場中測定により、スケーリング則が成立していることを示す兆候を得た。このスケーリング則成立の検証は、異常な巨大磁気抵抗効果の発現機構を解明する上で非常に重要と考えられる。この実験を重点的にすすめ、世界で初めての本系におけるスケーリング則成立の確認を目指す。ヘリウム3クライオスタットを用いることにより、0.4Kまでの極低温にまで測定領域を拡張し、この検証をより確かなものにする。さらに、WTe2と類似した巨大磁気抵抗効果を示すMoTe2を含めて系統的研究へと発展させることと、これらのダイカルコゲナイドMX2系を母相とする新規超伝導を探索する実験も進める。 上述の実験において、単結晶に印加する磁場の方向を自由に回転させながら、電気抵抗の磁場角度依存性を精密に測定することが必要となる。これを高精度かつ効率的に行えるようにするため、前年度に導入した「精密極低温ローテーター」を磁場中抵抗測定装置に組み込む改良を優先的に進める。
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備考 |
ダイカルコゲナイドWTe2において、残留抵抗比が1,000以上となる世界最高レベルの高純度単結晶試料の育成に成功したことを紹介する記事を掲載。
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