当該年度において得られた実績は、4報の査読つき論文として公開され、加えて1報を投稿中である。3件の学会参加によって広く告知され、また議論を深めた。 1.炭素繊維の生成プロセスの原子レベルでの理解 炭素繊維は、軽量、高強度であり、自動車・飛行機・宇宙産業など幅広い分野で実用化されつつある。将来的な炭素繊維産業の飛躍のためには、材料およびプロセスの最適化が必須であるが、いまだ原子レベルの構造の理解に至っていない。多くの炭素繊維はポリアクリロニトリル(PAN)などの合成高分子を蒸し焼きにすることにより得られる。固体NMRを用いて各合成ステージにおける原子レベルの構造解析を行うことにより、真空下および大気下での反応機構を解明した。研究を通じて特別研究員は非常に高度なNMR技術および知識を得た。構造解析は、高速の試料回転の元での13C-13C INADEQUATE、1H-13C HETCOR、1H DQ/SQ相関NMR法など、先端的な固体NMR技術を用いた。 2.天然存在比試料を用いた構造解析 固体NMR測定による構造解析は、しばしば13Cや15Nで同位体ラベルされた高価な試料が要求される。これは、13Cや15Nの天然存在比がそれぞれ1.1%、0.4%と非常に低いためである。これが固体NMR測定を用いる上で非常に大きな壁となっている。そこで、特別研究員と受入研究者は共同して、同位体ラベルを用いない天然存在比試料による構造解析に着手した。特別研究員は、自らのアイディアで14N NMR法を拡張し、ペプチドの平行および反平行βシート構造を区別する手法を開発した。
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