研究課題/領域番号 |
16F16074
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
大岡 龍三 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (90251470)
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研究分担者 |
CHOI WONJUN 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 熱性能試験 / 熱応答試験 / 逆問題 / 土壌熱伝導率 / 地中熱利用ヒートポンプ / 地中熱交換器 |
研究実績の概要 |
近年、地中熱交換器のより高い熱性能を目指し、形状と材料の両面から多様な開発が行われている。特に比較的大きな直径を持つ基礎杭熱交換器の場合には、熱交換器の形状的な自由度が高いため、多様な形状の熱交換器が提案されている。 新開発の地中熱交換器の熱性能を比較するためには、熱交換率の把握が必要であり、2つの方法が用いられる。1)一定熱流を発生させる熱応答試験(TRT:Thermal response test)を行いて土壌の熱物性を推定し、解析的または数値的モデルを用い、間接的に熱交換器の性能を把握する方法、2)入口温度固定の制御で熱性能試験(TPT:Thermal performance test)を行い、直接性能を把握する方法がある。TRTとTPTは異なる構成の実験装置が必要であり、制御も異なるため、一般的には研究目的ではない限り、TRTのみ行われているのが現状である。本研究では、TRT装置を基に安価でTPT装置を制作する方法を試みることに加え、TPTのデータを用い、土壌の有効熱伝導率と熱交換器の熱抵抗の推定にまで拡張する方法を提示する。この実験法と推定法を結合し、熱性能・応答試験(TPRT:Thermal performance response test)と名付ける。 本研究では、安価でTPT装置を制作し、TPTのデータを土壌熱物性の推定まで拡張するTPRTを提案した。SSR(Solid state relay)とPID制御機を既存TRT装置に追加する操作のみで、正常誤差0.1度程度の非常に安定的な制御性を確認した。TPRTからの土壌物性の推定結果は、過去の推定範囲に入っていた。加えて、設計基準値として活用できる単位熱交換率を提案した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
熱性能応答試験装置を安価で開発した。開発した装置は既存の熱応答試験(TRT:Thermal response test)と装置に合計5万円程度のPID制御機とSSR(Solid state relay)を追加する方式であり、既存のTRT装置に簡単に追加できる長所があるので、普及することにおいて極めて有利だと言える。 制御性能の側面でも期待以上の制御性を達成した。地中熱交換器の入口温度が、初期温度の17度から設定温度の25度になるまでに要する時間は6分であり、25度に達したあとのオーバーシュートは0.45度であった。本研究で使用した7 kWより大きいヒーターを設置した場合、設定温度により早く到達できると考える。実験開始から15分後の入口温度と設定温度間の差は0.2度以下であり、1時間経過以降0.1度以下に収まった。この誤差はシステムの定常誤差としてみなすことができる。この結果から水タンクと複雑な制御ロジックを適用せずとも、十分に早く、安定性の高い熱性能試験(TPT:Thermal performance test)ができることを確認した。 実験データが安定しているので、土壌物性の推定も安定的になることを確認した。TPRTの温度応答には、一般的なTRTで現れる外部環境との熱交換による外乱が、アクティブな制御により抑えられ、ほとんど生じていない。2015~2016年の間同じBHEを用いて行ったTRT結果の範囲は、熱伝導率が1.86~1.98 W/(mK)で、ボアホール抵抗が0.146~0.159 mK/Wであった。TPRTからの推定値は過去の推定範囲に入っており、推定信頼性が確認できる。
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今後の研究の推進方策 |
熱性能応答試験(TPRT:Thermal performance response test)を通じ、地中熱交換器の実際の性能を確認できるというのは、既存設計法の修正のみならず、設計プロセスが非常に簡単化できることを意味する。既存の熱性能試験(TRT)を行い、地中熱交換器の熱抵抗と土壌の熱物性を利用した設計法は、複雑で前述のように多くの不確実性を含んでいるので、多くの問題が生じた。これに対し、TPRTを行い、地中熱交換器性能の経時変化を確認し、建物の負荷レベルと連続運転時間に基づいて設計を行うことは、設計が分かりやすいだけでなく、現場の環境を反映している熱交換器の性能値を利用するため、不確実性も減少する。地中熱交換器が十分な間隔を持って設置され、熱干渉がない場合、この設計法は非常に信頼性が高いと予想している。しかし、大規模で複数の地中熱交換器を高密度で設置された場合、熱干渉をどのように反映して設計を行うかは、難しい問題であり、新たな設計法の提案において主な研究対象になると考えている。
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