室温で液体状の塩であるイオン液体は、難揮発性や難燃性・高い電気化学的安定性など、水や有機溶媒などの分子性液体とは異なった特徴を有する。その特徴より、蓄電池における電解液、化学反応場、潤滑剤など様々な用途への期待を集めている。本課題では、特に潤滑剤としての用途を視野に研究を進めた。その実現に、イオン液体/固体界面の本質的な理解が必要であると考え、周波数変調原子間力顕微鏡 (FM-AFM) によりその界面構造の高分解能分析に取り組んだ。イオン液体は一般に水や有機溶媒に比べて数十倍以上粘度が高く、高分解能分析を困難にしている。本課題では、フォースセンサとして、AFMで幅広く用いられるカンチレバーではなく、先鋭化した金属探針と音叉型水晶振動子からなるフォースセンサ (qPlusセンサ) を用いることで、高粘度イオン液体中での高分解能分析を可能とした。研究内容は、まずイオン液体とKBr(100)面およびKBr(111)面との界面構造について、昨年度に引き続き研究を進め、界面溶媒和構造がそれらで大きく異なること、その原因として固体基板表面電荷密度が関与することが強く示唆された。さらに、潤滑用途への展開のため、イオン液体とグラファイト界面についても研究を行った。グラファイトとの界面においても、フォースカーブ測定により、イオンペアサイズを周期とする界面溶媒和構造の存在が確認された。さらに、表面形状測定では、グラファイトの原子配列とは明らかに異なる分子スケールコントラストが確認された。イオン液体構成イオンとグラファイト格子との相互作用に起因するものと考えられる。本技術により、幅広い固体材料に対し、イオン液体との界面構造の高分解能分析が可能であることが実証された。今後、巨視的な潤滑特性と微視的な界面構造の相関について研究が進むと期待できる。
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