研究課題
メタバーコーディングとメタゲノミクスの手法を用いて,同所的に分布する真無盲腸類(食虫類)の食性と腸内微生物相の解明を目指して研究を進めた.昆虫類などを補食する地表・地中性小型哺乳類である真無盲腸類に着目し,本州中部地方の長野県の1つの地点においてほぼ同所的に分布する10種を捕獲し,それらの垂直分布やマイクロハビタットの違いを調べ,分布の同所性,同位置性について明らかにするとともに,その種内・種間関係について考察した.本研究により,これまでに知られていたよりも多くの種が一つの山に分布していることが明らかになり,当初計画よりも詳細な分布解析を進めることができた.また,当初計画には無かったが,比較のために真無盲腸類の分布種構成が異なる北海道においても同様の捕獲調査とサンプル収集を行い,調査した一つの地域でほぼ同所的に分布する3種を解析した.当初計画よりも多い種を研究対象とすることになった一方で,同所的に分布する種間で形質置換などが生じていて,従来の文献からの正確な種同定が困難なものもあったために,まず遺伝子解析によるチトクロームb領域の塩基配列を用いたDNAバーコンディグによる種同定と種間の関係について調査した.遺伝子実験設備の整備を進め,同位体分析や食性分析を進める予備的実験を開始した.研究成果については学内のセミナーや国内学会,国際動物学会議などで発表して,国内外の関連分野の研究者と議論し,その内容を研究にフィードバックした.分布変遷や地理的分化,体サイズの変異,同所的種分化に特に着目して,新たな研究発想につなげることができた.そうした成果について,現在国際学術雑誌に論文執筆を進めている.
2: おおむね順調に進展している
本年度の研究では同所的に分布する真無盲腸類について当初想定したよりも多くの種と個体数を得ることができ,さらに垂直分布や同所性について,より複雑なパターンが見られることが明らかになった.このため,野外調査と分布解析に時間をかけることで興味深い成果をあげることができた.形質置換などが同所的種間に見られることから種同定におけるDNAバーコーディング適用に予定よりも時間がかかったが,種間・種内変異に新たな発見をもたらすことができた.初年度であることから実験室の整備や研究環境の構築に少し時間がかかったこともくわわり,当初予定していた同位体分析と腸内微生物相分析は予備的な作業にとどまり,やや遅れが見られる.一方で,先行研究における真無盲腸類の垂直分布や同所性分布,食性などの文献調査は順調に進んだ.また,進展の著しい生物多様性分野におけるメタバーコーディングとメタゲノミクスに関する論文調査を充実させた.初年度は7ヶ月間であったので,研究成果についての学術論文の公表はまだであるが,国内・国際学会で研究成果を発表するとともに,関連分野の研究者との議論を通じて研究への新たな着眼点を見いだすことができた.
初年度に想定以上の種多様性が認められた長野県の一つの地点での分布・マイクロハビタットの現地調査とサンプル収集を継続して行う.特に昨年は秋に調査を行ったが,本年度は春や夏に調査を行うことにより,季節による分布やマイクロハビタット,さらには食性についての変動について解明を目指す.DNAバーコーディングによる種同定に続いて,次世代シークエンシング技術を用いて,マイクロバイオームおよび食物成分についての配列決定を進める予定である.初年度からの統合的な成果を国内学会で発表しながら,国際学術雑誌への原著論文の投稿,出版を進める予定である.
すべて 2017 2016
すべて 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 謝辞記載あり 3件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (2件) (うち国際学会 1件)
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