研究課題/領域番号 |
16F16095
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
石井 尊生 神戸大学, 農学研究科, 教授 (20260648)
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研究分担者 |
CASTILLO CRISTINA 神戸大学, 農学研究科, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-07-27 – 2018-03-31
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キーワード | イネ / 栽培化 / 考古学 |
研究実績の概要 |
イネ(Oryza sativa)は世界人口の3分の1以上の主食となっており、今から約1万年前に祖先種である熱帯アジアの野生イネ(O. rufipogon)から栽培化が始まったといわれている。栽培イネと野生イネの形態を比較すると、種子の脱粒性、有芒性、穂の開帳性など様々な違いが見られ、栽培化の過程で人間にとって都合のいい形質が選抜されたと考えられる。しかしながら、これらの栽培化形質が選抜された順序や、人類の農耕発展に与えた効果については不明な点が多い。本課題では、外国人特別研究員の考古学的な視点に基づき、申請者がこれまでに作出した野生イネの遺伝背景に栽培化形質を支配する栽培イネの対立遺伝子を導入した実験系統を用いて、これらの形質変化がイネの栽培・収穫量にどのように影響を与えたかを明らかにすることを目的として研究を進めた。平成28年度はこれまでに作出した野生イネの遺伝背景に栽培イネの栽培化形質を支配する遺伝子を導入した実験系統の整備を更に進め、対象とする栽培化遺伝子座以外の染色体領域を野生イネで遺伝的に固定した系統の選抜を進めた。並行して、これらの材料を用いて翌年度に計画している種子脱粒性と穂の開帳性が種子収穫効率に与える効果の実験的検証に向けて、出穂日の調査・植物形態調査を行い非導入系統の野生イネとこれら実験材料がほぼ近い形態を持つことを確認した。さらに、野生イネにおいて収穫した種子の離層形態について詳細に観察し、成熟種子と異なり未熟種子を回収した場合には離層の細胞に分断された痕跡が見られることから、栽培イネと比較的近い形態になっていること可能性を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成28年度の研究は、これまでに作出した野生イネの遺伝背景に栽培化形質を支配する栽培イネの対立遺伝子を導入した実験系統の整備を更に進めた。種子脱粒性(sh4とqSH3)、ならびに穂の開帳性(SPR3)の原因となる変異を特異的に識別するDNAマーカーを用いた遺伝子型判別によって導入系統の遺伝背景を可能な限り野生イネの染色体に置き換えた系統の選抜を進めた。その結果、全7系統において当該の遺伝子座において栽培イネ由来の染色体断片を持ったNILの作成が完了した。これらを予備的に圃場で栽培し、出穂期と植物形態に大きな差異が見られないことを確認した。また、種子脱粒性遺伝子座における変異を持った系統は、組織切片の作成と顕微鏡による離層面の観察を行い脱粒強度との関係を明らかにした。さらに、64品種からなる世界の栽培イネコアコレクションを水田圃場にて栽培し、種子脱粒性の原因となる離層形成程度について顕微鏡観察を行い、水田遺跡から発掘された炭化米種子における離層形態との比較を行った。加えて、栽培化初期を想定して採種後の種子を炭化させた際における離層や芒の状態について評価を行うため、実験用マッフル炉を用いた実験系の構築を進めた。
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今後の研究の推進方策 |
平成28前年度に選抜した実験系統を圃場栽培し、種子脱粒性と穂の開帳性との相互作用が種子収穫効率に与える効果について実験的検証を行う。これらの実験系統(8遺伝子型)は、各遺伝子型あたり9個体を1ブロックとして4反復の圃場栽培を行い、出穂1週間後から2日おきに各ブロックの種子を手でたたいて回収することにより収穫量の評価を行う。また、外国人特別研究員がこれまでに調査してきた遺跡から発掘した古代米の種子基部の離層形成と、本研究における野生イネ実験系統の離層形成と比較することによって、栽培化初期における種子脱粒に関与した遺伝子座の推定を行う。炭化種子の実験では、炭化処理後に残った芒の基部の直径から、芒の長さを推定することをめざし、古代米における芒の長さの変遷について考察する。
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