イネ(Oryza sativa)は世界人口の3分の1以上の主食となっており、今から約1万年前に祖先種である熱帯アジアの野生イネ(O. rufipogon)から栽培化が始まったといわれている。栽培イネと野生イネの形態を比較すると、種子の脱粒性、有芒性、穂の開帳性など様々な違いが見られ、栽培化の過程で人間にとって都合のいい形質が選抜されたと考えられる。しかしながら、これらの栽培化形質が選抜された順序や、人類の農耕発展に与えた効果については不明な点が多い。本課題では、申請者の遺伝学的な視点と外国人特別研究員の考古学的な視点に基づき、申請者がこれまでに作出した野生イネの遺伝背景に栽培化形質を支配する栽培イネの対立遺伝子を導入した実験系統を用いて、これらの形質変化がイネの栽培・収穫量にどのように影響を与えたかを明らかにすることを目的として研究を進めた。平成29年度は昨年度に準備した野生イネの遺伝背景に栽培イネの栽培化形質を支配する遺伝子を導入した実験系統(対象とする栽培化遺伝子座以外の染色体領域を野生イネで遺伝的に固定した系統)について夏期に実験圃場で栽培し、種子脱粒性と穂の開帳性の喪失が種子収穫効率に与える効果を比較した。その結果、種子脱粒性を低下させる変異が集積した場合に、イネの非脱粒化が促進された可能性を示唆する実験データを得た。また、種子収穫を登熟前に行った場合における離層の形態についても顕微鏡を用いた詳細な観察を行った。
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