研究課題/領域番号 |
16F16102
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研究機関 | 東京海洋大学 |
研究代表者 |
酒井 昇 東京海洋大学, 学術研究院, 教授 (20134009)
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研究分担者 |
LLAVE PEREZ YVAN 東京海洋大学, 学術研究院, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-04-22 – 2018-03-31
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キーワード | 通電加熱 / 低温調理 / 電気伝導度 / タンパク質変性速度 / 水産物 |
研究実績の概要 |
栄養価に優れた世界的にもその価値が見直されている水産食品の調理済み食品製造をターゲットとして、加熱効率の著しく高い直接加熱方式の通電加熱を、真空調理法へ適用した新たな調理加工システムの構築を目的として、調理実験および理論的な解析を行った。 通電加熱法の真空調理システムへの適用に関して、まず通電装置調理システムの構築を行った。周波数20kHzの通電装置を用いて、印加電圧・電流値をリアルタイムで計測しつつ加熱調理実験を行った。試料としては主にマグロを使用し、さく状(直方体)に整形したものを使用した。また、従来法の恒温槽によるマグロの真空低温調理実験実験を行い、比較検討を行った。その結果、従来法に比べて、短時間で加熱できることから、省エネルギーで調理できること、および均一に加熱できることから品質面で優れていることを示した。 低温調理の大きな特徴は低温で加熱することにより、タンパク質変性を抑えて水分を保持し、柔らかい肉質を保つことである。加熱にともなって、どの程度タンパク質変性が進行するかを検討するためには、変性速度定数の取得が必要であり、DSCダイナミック法を用いて、マグロのタンパク質変性速度定数を推定した。ここでは、速度定数の温度依存性をアレニウスの式で表したときの活性化エネルギーと頻度因子を求めた。 通電加熱の被加熱性を決める重要な物性値は電気伝導度であり、試料の電気伝導度をLCRメータを用いて測定した。電気伝導度は水分によって変化し、温度依存性があるため、含水率の異なる試料(大トロ、中トロ、赤身)を用いて、試料温度を変えて実測した。凍結原料から加熱することを想定し、-30℃から電気伝導度を測定したが、解凍にともない、急激に電気伝導度が大きくなることを示した。このことは通電加熱においてもランナウェイ現象が起こることを示唆するもので、凍結原料を使用する場合、注意を要する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
水産食品のうち、タンパク質食品の加熱においては、タンパク質変性の制御は極めて重要であり、タンパク質変性を予測するためは、タンパク質変性速度定数の値が欠かせない。2016年度に試料として用いたマグロのタンパク質変性速度定数の公表された値はなく、本実験により測定した。さらに、マグロの調理実験を行い、その温度変化とタンパク質変性の関係を明らかにし、国内学会(日本食品工学会)および国際学会(IUFOST, International Union of Food Science and Technology)で発表したとともに、国際学術誌(Journal of Food Processing and Preservation)にアクセプトされている。 また、通電加熱において重要な物性値である、電気伝導度についてもマグロの値は公表されていないため、含水率の異なる試料(大トロ、中トロ、赤身)を用いて実測し、国際学会(EFFoST(European Federation of Food Science and Technology)International Conference)で発表したとともに、国際誌(Journal of Food Engineering)に既に掲載されている。
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今後の研究の推進方策 |
おおむね研究計画どおりに研究が進行しており、28年度は、水産食品として主にホタテを使用して研究を推進する。具体的な検討課題は次のとおりである。 1.加熱真空調理実験 2016年度に構築した通電加熱システムは大気圧下で加熱するもので、真空下では実験ができなかった。2017年度においては、真空パウチ袋の一部が導電性材料からなる袋を作成し、真空パウチした試料に通電して加熱実験を行う。パウチフィルムの導電性材料部分が通電加熱においては電極となる。この電極の位置と形状が加熱特性にどのように影響するか検討する。 2.通電加熱過程のシミュレーション 通電加熱過程の試料の温度変化を予測するためには、ジュール発熱を伴う食品内部の熱伝導解析を行う必要がある。さらに試料内発熱分布を求めるためには、電極間の電界解析を行う必要がある。ここでは、市販の熱伝導解析ソフトと電磁界解析ソフトを用いてシミュレーションを行う。温度上昇により電気伝導度が代わるため、両者を錬成して解析する。また、加熱にともなって、どの程度タンパク質変性が進行するかを、計算により得られた温度分布変化からシミュレーションする。なお、計算に必要なたんぱく質の変性速度定数は2016年度に得られた値を使用する。 3.通電加熱最適調理法の検討 種々の条件で実験及び解析を行うことにより、通電加熱調理した時の試料の温度とタンパク質変性および試料に残存する水分について検討する。同時に、熱源として恒温湯槽を用いた、従来法によるホタテの真空低温調理実験を行い、両者を比較検討することにより、通電加熱調理時の最適加熱条件について検討する。
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