昨年度までの線虫をモデルとした解析において、軸索切断後に近位側軸索の先端に形成される成長円錐が、切断の際に細胞体より分離された遠位側の残存軸索断片の切断部付近を忌避しながら伸長する現象が、アナンダミド合成酵素であるNAPE-PLDの線虫ホモログnape-1とnape-2に依存することを発見していた。本年度は、その忌避現象が軸索切断により生じる他のイベントにも依存しているのか、それともアナンダミド単独で十分かについて調べるために、アナンダミド合成の律速酵素であるNAPE-1を異所発現させることにより検証した。そこで切断軸索に体側部で直交するPLM神経においてNAPE-1を特異的に発現させたところ、切断軸索はNAPE-1を異所発現した場合にのみPLM神経の軸索を忌避して伸長することを見出した。またその現象が、アナンダミド受容体の候補として同定したNPR-19およびNPR-32の2つの遺伝子を欠損する変異体、そしてその受容体候補の下流で機能するGoの変異体ではそれぞれ起きないことも確認した。なお、その忌避は切断された軸索でのみ起こり、発生過程にある伸長中の軸索には影響しないことも判明した。以上のことから、アナンダミドが切断された再生軸索の伸長方向を特異的に制御することを明らかにした。おそらく、アナンダミドは神経の切断により切断部位において急速に合成・放出されると考えられる。放出されたアナンダミドは切断領域に留まって、再生してきた軸索が切断部位を横切らないように負の制御を行っていると考えられる。なお、本研究は最終的に論文として発表された。
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