研究実績の概要 |
本年度は,「結晶成長」と「特異拡散」を記述する二種類の偏微分方程式に対する先行研究を深化し, 数学解析と数値解析を行った. 1. 相転移現象を記述するtime coneモデルの多重双曲型方程式による記述により, 一連の課題が双曲型方程式に関する問題に帰着されたが, 定式化はまだ完全とはいえず, 逆問題の研究も単発的であった. 本年度は汎用性向上のため, すべての係数が時間と空間変数に依存する一般の双曲型作用素を取り扱い, 特に実用性の高いソース項決定逆問題に焦点を絞ってきた. 第一に, 最終時刻における観測については, 解析的Fredholm理論を用いて, 解の条件付き一意性を示した. 第二に, 内部の部分領域における観測については, 新しいCarlaman評価を確立し, 解の局所的な Hoelder 安定性を証明した. 更に, 上記の2つの問題に対して, 変分法に基づく反復法をそれぞれ構築し, 数値実験で精度と効率を検証した. 上記の成果は理論上の空白を埋めただけではなく, 産業界における製造過程の制御への応用の途を開いた. 2. 不均質媒質における特異拡散現象を記述するモデルの有力な候補として, 非整数階の時間微分項を持つ拡散方程式 (TFDE) が提唱されたが, 整数階の通常の偏微分方程式との違いや解の基本性質などには, 未解決問題がまだ多い. 本年度はまず, TFDEの基本解に基づいて, 解の定性解析で重要な「強最大値原理」を証明した. その応用として, 拡散源の時間分布を一点での観測で決定する逆問題を考え, 解の一意性を示した. この結果は, 拡散源の外で観測する場合に先駆的であり, 特に危険な汚染源の時間発展パターンの推定に役立つ.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究の2つの柱である結晶成長と特異拡散についての研究は, 先行研究を踏まえながら, 着実に深化している. 各支配方程式において, 新しい結果を幾つか挙げ、一部を出版した. また, 逆問題の研究も理論と数値の両方に展開している. しかし, 既存のモデルの革新的な一般化のためには, 準備はまだ万全とはいえず、次年度に取り組む.
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今後の研究の推進方策 |
今まで得られた成果をもとに, 関連する一連の問題を考察していく. 双曲型方程式のソース項決定逆問題から示唆を受け, 係数決定逆問題の安定性及び数値解法を確立する. 非整数階拡散方程式においては, 拡散源の時間成分と空間成分の再構成をそれぞれ考え, 逆問題の一意性・安定性を調べ, 数値解法を開発したい. 一方, それぞれのモデルを一般化するため, 支配方程式が非線形項を含んでいたり連立であったりする場合を視野に入れ, 順問題の適切性や解の漸近挙動などについて数学解析を行う. さらに, 付随する逆問題と制御問題に対しても, 理論と数値解析双方の研究に進んでいきたい.
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