研究課題
当該年度は著名な科学専門誌への論文の掲載が相次ぎ、大きな成果をあげることができた。第一の成果はWater Resources Research誌(アメリカ地球物理連合)に掲載された、重力衛星のデータ解析によって大量の降水に伴う内陸の貯水池の水位上昇を検出した論文である。これは地理的な広がりが小さくとも大きな質量変化を伴う場合は衛星からの探知が可能であることを示したもので、陸水の増減に伴う海水準変化を議論する上で大きな一歩となる。第二の成果はGeophysical Research Letters誌(アメリカ地球物理連合)に掲載されたレター論文であるが、本論文は今世紀に入ってからの海水準の上昇に関して、単に海面の上昇だけでなくその加速度を正確に求めた初めての成果である。我々はこのわずかな加速度を、Sea Level Budget法と呼ばれる手法で、GRACE衛星によって直接計測される質量変化だけでなく、衛星高度計による海水の体積変化と世界の海洋のその場観測による海水の温度変化を組み合わせて計算された質量変化を比較することによって、高い信頼性で同定することに成功した。これは地球温暖化の研究の歴史の一里塚となる重要な成果である。またGRACE衛星によって海洋の質量変化を直接追うだけでなく、陸域の質量変化と地球上の水の量の保存の仮定を利用した間接的な方法によって、海面上昇やその加速が陸のどのような水(氷床、大陸氷河、土壌水分等)からきているかを明確に示した。また現在見られている海面上昇の加速度の大きな部分が陸氷の融解水の流入より、今世紀に入って起こった平均気温の停滞(hiatus)の終了に伴う海水の熱膨張の影響が大きいことを初めて明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
当該年度は、研究成果が二つの一流誌での論文となった点で大きな成果を上げることができたが、もう一つの研究テーマである、GRACEデータ解析に祭して生じる、陸水変動の計測値に対する海洋質量変動の漏れこみとそれを正確に取り除く斬新な手法の開発については、まだ最終的な論文の出版には至っていない。これを平成30年度の重要課題としたい。
GRACEデータの解析は、従来のストークス係数を用いたデータと、ここ数年流行しているマスコン解について、その得失を信号の漏れこみの観点から明らかにする予定である。このテーマはすでにJournal of Geophysical Research Solid Earth誌に論文として投稿済みであるが、根本的な書き直しを要求されており、特に海洋質量の時空間変化を主成分分析する手法について改良を重ねたのち再投稿して出版にこぎつける予定である。
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すべて 雑誌論文 (6件) (うち国際共著 6件、 査読あり 6件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 5件)
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