研究課題/領域番号 |
16F16388
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
後藤 祐児 大阪大学, たんぱく質研究所, 教授 (40153770)
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研究分担者 |
AGUIRRE MARTINEZ CESAR 大阪大学, たんぱく質研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-11-07 – 2018-03-31
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キーワード | 蛋白質 / 脳神経変性疾患 |
研究実績の概要 |
変性蛋白質は、ミスフォールディングしてアミロイド線維を形成してアミロイドーシスと総称されるさまざまな疾患の原因となる。本研究では、変性蛋白質の形成する異なった凝集状態を、溶解度や過飽和に基づいて原理的に 理解することを目指した。 (1) 超音波によるアミロイド線維形成とその機構:超音波に依存したアミロイド線維形成機構の解析を行うためのモデル系として線虫を検討した。線虫筋細胞内にαSynuclein-YFP(Syn線虫)を強制発現した線虫モデルを作製して、超音波照射が細胞内で凝集体形成、運動機能に与える影響を調べた。 まず、線虫を用いたSyn凝集定量法の開発、多個体自動追尾装置による運動機能定量法の確立、ウェスタンブロットによる凝集体の生化学的評価方法の確立を行った。また、線虫に対する超音波照射は、野生型線虫の行動、運動機能、寿命に影響を与えない閾値を確認した。 上記条件でSyn線虫に超音波照射し、共焦点顕微鏡観察、ウェスタンブロット、線虫多個体自動追尾機能装置を用いた運動機能解析を行った解析したところ、照射翌日より共焦点顕微鏡観察において非照射群と比べて優位にSynの凝集が増加し、運動機能の低下が認められた。またウェスタンブロット解析では不溶画分への移行、C末端の断片化、オリゴマーの形成が確認された。また超音波の強度依存性に凝集体数、運動機能の増悪を認めた。一方で、線虫に対して経口的にin vitroで作成されたSynアミロイド線維を摂取させることで線虫生体内のSyn凝集体の増悪、運動機能増悪を検出できた。 (2) 熱量計によるアミロイド線維形成の熱測定:等温滴定型熱量計を用いたアミロイド線維形成の熱測定を実施した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
我々は超音波によるアミロイド線維形成とその機構についてin vitroでの解析を様々行ってきた。今回超音波が生体組織内においても蛋白質の凝集を促進することを見出した。さらに、生体内での蛋白質凝集自体が、表現型の増悪につながることが示された。線虫は飼育が容易であり、また高濃度大腸菌による液体培養をすることで、大量培養が可能である。線虫からの蛋白質凝集体の精製、構造解析が可能になれば、生体組織における蛋白質凝集様式の多様性を分子細胞学的利点と蛋白質構造解析の利点を融合させる新たな展開が期待される。 今年度は、新たな線虫システムの構築に主眼をおいて研究を進めた。そのため細部においては当初計画と一部相違が認められた。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 線虫を用いた凝集アッセイ:本年度は線虫における凝集体形成について、超音波が与える影響の解析、凝集体の顕微鏡的評価法、生化学的解析、運動機能評価について調べ、極めて興味深い結果を得た。次年度はこれを発展させ、線虫からアミロイド線維を抽出すると共に、アミロイド線維の構造解析を行うことを目指す。 (2)αSynのオリゴマーと線維形成、病態多様性の関係:他方、我々は、シヌクレインの線維形成を96ウェルプレートを用いて調べている中で、同一の条件下においても2種類の異なる種類の線維の形成されることを見出した。シヌクレインが蓄積する神経疾患においては、パーキンソン病、多系統萎縮症、レビー小体型認知症と様々な異なる疾患が生じることが知られており、その背景にはシヌクレイン凝集体の構造多型の影響が推測されている。上記2種類の線維が形成される蛋白質立体構造の違いを明らかにする。さらに線虫のモデルへの応用を試みて、構造多型の違いがどのように病理学的多様性を生むのかを検証する。
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