研究課題
メダカ科魚類のいくつかの種に見られる‘腹鰭保育’は,腹鰭の伸長や卵巣卵の同期発達などの形質が同時進化することで機能する複合適応形質であるが,その進化の遺伝基盤は不明である.本研究は,腹鰭保育を行うエバースメダカ(Oryzias eversi)と,その近縁種で非腹鰭保育種であるメダカ属未記載種(Oryzias sp.)を利用して,腹鰭保育の進化の遺伝基盤を解明することである.まず,野外採集によって得られた野生個体の産卵形質(腹鰭長,総排泄口のくぼみの大きさ,および産卵間隔)の比較を行う.次いで,雑種F2の表現型のタイピングも行い,腹鰭保育に関わる形質の量的遺伝学的解析を行うと共に,腹鰭保育を制御する遺伝子座のマッピングも行う.本年度は,ティランガ湖およびドピン・ドピン川からそれぞれエバーシメダカとメダカ属未記載種を採集し,活かしたまま日本に持ち帰った.これらの個体を親魚として,雑種F2個体を作出している.交配の組み合わせは,腹鰭保育種♂×非腹鰭保育種♀の1ペアである.得られたF1個体同士をランダムに交配し,現在得られた一部のF2メス各個体の腹鰭長,総排泄口のくぼみの大きさ,および産卵間隔の計測・計数を行っている.現時点で50個体ほどのF2メスのデータが得られ,これらの個体からゲノムを抽出し,ddRAD-seqにかけてQTLマッピング用のSNPマーカーの検討を行っている最中である.
2: おおむね順調に進展している
F1メス個体の性比が大きくオスに偏ることから,F2個体の作出が難しい状況であるが,多数のF1個体をランダムに交配することでそれをカバーしている.計画に大きな遅れはない.
引き続きF2個体の作出と各個体の表現型のタイピングを行う.追加で50個体くらいタイピングが終了した時点で(つまり合計100個体ほどのF2個体のタイピングが終了した時点で),再度ddRAD-seqを行う.このデータセットをもとに,SNPマーカーの連鎖解析と,腹鰭保育遺伝子座のマッピングに関する解析を行う.
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