TORの活性をその特異的な阻害剤ラパマイシンにて阻害したところ、通常培養条件であるにも拘らず、細胞内にスターチの蓄積が観察された。スターチ合成に関わる遺伝子群のmRNA量は、TOR活性阻害によって変化しなかったことから、転写後調節によってスターチ量が調節されている可能性が考えられた。そこで、翻訳後調節の主制御であるリン酸化に注目し、LC-MS/MSを用いてリン酸化タンパク質とその量的な変動を観察した。その結果、53個のタンパク質のリン酸化状態がTORの活性依存的に変化することが明らかになった。また、53個のリン酸化部位周辺のアミノ酸配列を解析した結果、RXXSP (Xは任意のアミノ酸) モチーフが見出された。 同定された53個のタンパク質の内、Glycogeninタンパク質に着目した。酵母におけるGlycogeninの相同タンパク質は、スターチ生合成の初期段階において重要な役割を担っていることが明らかになっているからである。Glycogeninタンパク質のリン酸化が確認された613番目のセリン残基について、リン酸化状態を常に模倣するためにグルタミン酸残基に置換したGlycogenin(リン酸化模倣)が発現するシゾン株、リン酸化が引き起こされない状態を常に模倣するためにアラニン残基に置換したGlycogenin(脱リン酸化模倣)が発現するシゾン株をそれぞれ構築した。その後、各株におけるスターチ蓄積量をコントロール株と共に比較した。その結果、リン酸化を模倣したGlycogenin発現株に対して、脱リン酸化を模倣したGlycogenin発現株では、スターチ量が2倍に上昇していた。このことは、Glycogeninの特異的な残基のリン酸化状態によって、スターチ量が調節されていることを示している。
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