研究課題/領域番号 |
16F16704
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
榊 茂好 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 研究員 (20094013)
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研究分担者 |
REN XUEFENG 京都大学, 福井謙一記念研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-07-27 – 2019-03-31
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キーワード | 発光材料 / 光化学 / 反応経路 / 時間依存密度汎関数 / 無輻射遷移 |
研究実績の概要 |
有機発光ダイオードディスプレイには高効率の緑、赤、青の発光源が必要であるが、現段階で青色発光源の錯体が不安定であるため、より材料として適した発光材料の創成が望まれている。FIrpic は青色発光材料としてよく知られており、高い量子収率Φem (0.95)と長時間発光τem(1.74μs)を示すという特徴がある。発光機能の安定性を改善するためは強い配位子,及び無輻射遷移過程を避けることが必要である。本研究では、青色発光材料として応用が期待されているイリジウム錯体、Ir(4,6-dFppy)2(pic) (FIrpic)について分子内水素結合と量子収率の相関を理論化学計算により明らかにすることを目標とした。計算手法は、通常の密度汎関数法及び時間依存の密度汎関数法を用いた。また、無輻射遷移は3重項状態および1重項状態の交差点を通して進行することから、最もエネルギー的に低い交差点を効率的に求めることが必要であり、これらは(single component artificial induced reaction) SC-AFIR法を用いて行った。分子内水素結合の影響を調べるために、水素結合を持つ錯体及び持たない錯体について、構造、フロンティア軌道、吸収スペクトル、発光スペクトルの解析を行い、比較検討を行った。その結果、水素結合に有無により、交差点のエネルギーが大きく異なり、水素結合があると、エネルギーが高くなり、発光性能が向上することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまで、無放射緩和過程の反応経路として、異なる配位子間でのπ1*ー>π2* 電子遷移に始まり(S0 ->S1) 電子励起のあと、T1/S1の交差を経て、T1の最小エネルギー点に到達し、その後、T1/S0の交差点をへて、S0の最小値に到達することを明らかにした。ここで、T1の最小エネルギー点は、3重項 MLCT状態、および、T1/S0交差点は、MC状態として特徴付けられた。高効率の青色発光を実現するためには, 無放射緩和の過程を避ける必要、すなわち、T1/S0の交差点のエネルギーレベルが、高いことが望まれるが、水素結合の影響は、このT1/S0のエネルギーレベルに明らかに現れており、内部水素結合を保有する錯体のT1/S0レベルは、持たないものに比べて高いことがわかった。ただし、T1 からT1/S0に至る過程で、T1面上に遷移状態がある可能性が考えられ、この遷移状態がT1/S0のエネルギー交差点より高い場合はさらにそれらの比較も重要となる。さらに、スピンー軌道相互作用の影響も考慮しなければならない。
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今後の研究の推進方策 |
Pt(II)錯体は強いスピンー軌道相互作用とそのsquare planar 構造のため優れた発光材料として知られている。先行するPt(II)錯体における理論化学計算では、無輻射緩和過程は、3重項のMC状態からMECPを経て、S0に緩和することが報告されている。さらに、三重項では、その他のいくつかのMLCT/LLCT最小エネルギー構造が認められ、このうち最もfrank-condon点の構造に近いT1エネルギー最小構造から放射減衰が起こる、一方でT1/S0交差点は比較的frank-condon点から離れた所に位置することが示されている。本研究では、類似したPt(II)錯体においてはこれまで考慮されていないfrank-condon点に近い構造から無輻射緩和過程についてその可能性を調べる。また配位子(acetylacetonato)の交換により、発光色が変化することが報告されており、この色の変化に起因するメカニズムの解明を目指す。T1/S0交差点の探索のための計算手法としては、(single component artificial induced reaction) SC-AFIR法を用いる。
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