発光性金属錯体の発光強度は三重項励起状態から一重項基底状態への発光の速度定数と項間交差の速度定数の比で特徴付けられる。発光の速度定数はスピン軌道相互作用を含めた遷移双極子モーメントから算出できるが、従来その理論計算は容易では無かった。我々は、本研究で、項間交差の速度論を以下のように求めた。状態間の無輻射失活はFermiのGolden ruleにより、状態間のエネルギー差が小さい領域で起こりやすい。そこで、三重項励起状態と一重項基底状態のエネルギーが等しくなるSeam Crossingの構造とエネルギーを算出することで項間交差の起こりやすい錯体と起こりにくい錯体の違いを定性的に議論することが可能になるはずである。この考えに基づいて、置換基の変更により大きく発光強度が変化する白金錯体を取り上げ、Seam Crossingの構造とエネルギーをDFT法で算出し、系間交差の容易さを評価し、その起源を明らかにした。具体的には、発光強度が小さい白金フェニルピリジン(ppy)・ジケトン錯体と・発光強度が強い白金チアゾルイリデン・ジケトン錯体を取り上げ、Seam CrossingをSingle Component Artificial Force Induced Reaction(SC-AFIR)法により探索した。ppy錯体はジケトン配位子が平面からずれた構造のSeam Crossingが低エネルギー領域に存在することにより容易に熱的に失活し発光性を失うのに対し、チアゾルイリデン錯体はエネルギー的に不利な配位子の歪みを伴うSeam Crossingしか存在せず、従って熱的な失活が起こりにくく、発光が強くなることがわかった。
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