本研究の目的は、半導体ダイヤモンドを用いた電子デバイスを作製することで、パワーエレクトロニクス応用におけるダイヤモンドが本来備える物性の優位性を明らかにするものである。初年度においてはデバイス形成の基礎実験として、光電子分光による絶縁体/ダイヤモンド界面の分析を行い、MOSデバイス形成に至る理論的検討を行った。プラズマCVD法で形成した水素終端{111}リンドープn型およびホウ素ドープp型ダイヤモンド表面に誘電体薄膜としてアルミナをALDにより成膜し、その界面をXPSにより分析した。その結果、世界で初めてp型およびn型ダイヤモンド{111}表面での価電子帯エネルギースペクトル、誘電体との価電子帯バンドオフセットを系統的に定量評価することに成功した。特に重要な成果として、水素終端{111}n型ダイヤモンド表面ではエネルギーオフセットが2.7eVと大きく、この界面構造が反転モードで動作可能なpチャネルMOSFETの形成に適していることがわかった。これはダイヤモンドにおいてこれまで不可能であったパワーMOSFETの実現に重要なステップとなる成果である。
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