研究課題/領域番号 |
16F16726
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
下郡 智美 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, チームリーダー (30391981)
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研究分担者 |
ZOUIKR IHSSANE 国立研究開発法人理化学研究所, 脳科学総合研究センター, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-07-27 – 2018-03-31
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キーワード | 神経回路形成 / 発達 / ストレス / 環境 |
研究実績の概要 |
子供の脳発達は環境からの影響を受け、その後の脳機能に大きく影響を与えることが知られている。例えば、多様な言語環境が言葉の発達を促すバイリンガルなどは脳にとってプラスの発達だが、発育環境が悪い場合などにはうつ病や統合失調症などを引き起こすマイナスの発達も知られている。そこで、本申請では生後の発達期において外部入力、特に負の影響を与えるストレスが脳回路発達に与える影響を明らかにする目的で研究を行う。成体脳ではストレスによって神経細胞レベルでの変化(樹状突起、スパインの数の変動)が見られる脳領域として、前頭葉、海馬、扁桃体が挙げられている。しかし、発達期では先に記述したように、成体とは大きく異なる可塑性があることから、ストレスによる脳への影響は成体脳より大きいと予測される。さらに、その影響は臨界期を過ぎてしまうと、正常な神経回路に戻すことが困難になるために成体での行動異常の原因になることが考えられる。さらに、発達期に感じるストレスと成体が感じるストレスは異なるため、異なる神経回路に影響を与えている可能性も排除できない。また、発達期の経験による成体の行動異常は、成体がストレスを感じることによって起こす行動異常とはメカニズムが根本的に異なるため、その治療も困難である。そこで、発達期の脳特異的に感じるストレスに応じて同様の変化が見られるのか、また変化が現れる場合にはどのようにしてストレス入力がこれらの領域に伝達され、形態変化をもたらすのかを明らかにし、生後のストレスが脳発達に与える影響の全容解明に迫る。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
発達期特異的な母子分離などのストレスが脳内のどの神経回路形成に影響を与えるか明らかにするために、母子分離によって特異的に神経活動が上昇する脳領域を明らかにするために以下の実験を行った。1日3時間の母子分離軍とコントロール軍の比較で視床下部の室傍核(paraventricular nuc: PVN)でストレスホルモンと言われるコルチコトロピン放出ホルモン(Crh) mRNAの発現量が有意差を持っている個体を抽出。これらの脳で神経活動が上昇している領域をcFosの発現によって検討した。その結果、視床背内側核(mediodorsal nuc: MD)でcFosを発現する細胞数が有意差を持って増加していることを明らかにした。MDはさらに3つの領域に分けることができ、母子分離によってcFosの発現が吸える細胞はanterior MDに限局していることを明らかにした。 DiIによってanterior MDの軸索投射先をトレースしたところ、主に前頭前野(PFC :prefrontal cortex)に投射していることを明らかにした。そこで、anterior MDの神経活動をコントロールすることができるように、anterior MD-creマウスの作成を試みるためにanterior MD特異的に発現する遺伝子の検索を行った。さらに、MDがどのような時系列でPFCに投射するのか、様々な発達期での軸索投射パターンを明らかにした。今後は、ストレスによるMDの神経活動の状況がどのように軸索投射及びPFCの神経細胞の形態変化に影響を与えるのか明らかにしていく。
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今後の研究の推進方策 |
成体のマウスでは繰り返しの拘束ストレスや捕食者(ラット)の匂いにさらされることによるストレスはPFCの神経細胞のスパインの数に大きな変化をもたらし、記臆、認知機能に大きな影響を与えることが知られている。さらに発達期のラットのMDの切除によって、PFCの神経細胞の樹上突起の本数が大幅に減少することも報告されていることから、発達期のMDからの入力がPFCの神経細胞の形態変化及びMD-PFC回路の形成に重要な役割を果たしていると考えられる。今回我々が得た、発達期のストレスがMDの神経活動を上昇させると言う結果は、ポストシナプス細胞であるPFCの神経細胞の発生に影響を与えていると考えられ、今後はMDの発達とPFCのMDからの入力による発達の関係を明らかにしていく。これにはMD特異的なcreマウスの開発、MD軸索の発達メカニズム、さらにPFCの神経細胞の発達メカニズムを明らかにしていく必要がある。これらの知見をもとに、MDの神経活動を時期依存的に変化させ、PFC神経細胞がどのように影響を受けるのか、形態変化を中心に明らかにし最終的にはその分子メカニズムを明らかにする。
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