研究課題/領域番号 |
16F16733
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研究機関 | 国際日本文化研究センター |
研究代表者 |
荒木 浩 国際日本文化研究センター, 研究部, 教授 (60193075)
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研究分担者 |
PETKOVA GALIA 国際日本文化研究センター, 研究部, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-11-07 – 2019-03-31
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キーワード | 日本伝統芸能 / 日本文化 / ジェンダー論 / 女性の表象 / 女もの / 文化的遺産 / 祭りと地域アイデンティティ / 本国家アイデンティティ |
研究実績の概要 |
本研究では、歴史的観点と現代的観点という2つの観点から日本伝統芸能を考察している。 歴史的観点では、歌舞伎を中心にジェンダー論の視点からジャンル論的考察を行い、古代から現代までジェンダー概念を検証し、舞台上で男性らしさ/女性らしさの理想がどのように具現されてきたかを分析している。具体的には、女猿楽、女曲舞、女房狂言、女文楽等、研究が途上であるジャンルや、歌舞伎の「女暫」「女鳴神」「女忠臣蔵」といった演目に注目し、男性中心日本の伝統芸能や社会における「女性」の表象を探っている。 現代的観点では、文化遺産としての伝統芸能という視点から、歌舞伎、能、文楽等の主流ジャンルのみならず、祭りと民俗芸能にも着目し、日本古典文化としての芸能が、日本のナショナル・アイデンティティや地域性の概念を定義付けるのに、どういうふうに重要な役割を果たしているかを考察している。 平成28年度では、歴史的観点では男性中心芸能の「女性」バージョンとして、中世以来の女猿楽、女曲舞、女房狂言等、江戸、明治時代の歌舞伎における狂言師/女役者、また女猿若、女義太夫、女文楽、 女剣劇等について、比較・歴史的研究を行ってきた。各資料館や図書館で調査し、上記に関する歴史的資料や情報を集めてきた。 現代的観点では、祭りで演じられている民族芸能/郷土芸能について文献的調査を行い、研究対象の歌舞伎や文楽、能、狂言、様々な踊り、里神楽、子供歌舞伎、黒川能等の芸能を観察、研究してきた。歌舞伎学会や能楽学会、民俗芸能学会の例会等に参加し、研究成果は香港とインドで行われた国外大会で発表した。また、国際日本文化研究センターで開催された講演会や荒木浩教授の共同研究「投企する古典性」に参加し、日本文化や文学,社会についての知識を深めることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2016年11月から2017年3月までこの5ヶ月間の間、計画していた研究は順調に進んでいると思われる。 まず、歴史的観点では、日文研の図書館や国立劇場伝統芸能情報館、早稲田大学演劇博物館の閲覧室、大谷松竹図書館で、江戸時代の初期から現在に至るまで歌舞伎や他の演劇ジャンル、映画における「おんな」で始まるタイトルを調べて、この興行に関する台本やプログラムなどの資料を調査し、入手可能な情報を集めてきた。想定した通り、このような興行はまことに多く、有意義な研究対象だと再確認した。この「女性」バージョンの中で一番よく知られている「女暫」について学術論文の原稿を執筆中である。 ただし、現代文献では中世の女猿楽、女曲舞、女房狂言についての情報は不十分で、古典の文献をもっと詳しく調べる必要がある。これは研究を遂行する上で一つの問題である。 次に、現代的観点では、研究遂行のために以下の芸能を見学、情報収集してきた:山形県庄内地方に伝わる黒川能(王祗祭で行われる)、愛知県焼津市藤守大井八幡宮で開催されている藤守の田遊び(田楽ともいう)、三重県北牟婁郡紀北町便ノ山地区種まき権兵衛の里で行われている紀北町の地域の英雄種まき権兵衛さんを弔う供養祭「種まき権兵衛祭り」で演じられている踊り、東京の浅草神社で開催されたこども歌舞伎、千葉県旭市鎌数伊勢大神宮で演じられている「鎌数の神楽」などである。演者達と面接し、写真やビデオを撮り、貴重な映像や資料を得ることができた。これらの芸能は国や県により指定重要無形民俗文化財で、地元の人のアイデンティティや生活、経済までにもどのような役割を果たしているかを検討してきた。 そして、京都出身の女性舞踏団体「綺羅座」と名古屋娘歌舞伎の稽古や公演を見学し、男性中心である現代芸能の舞踏と伝統芸能の歌舞伎の「女性」バージョンとして、これらを研究対象に加えて、比較的分析をした。
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今後の研究の推進方策 |
2年目は、歴史的観点を基軸に個別的研究を進め、江戸、明治時代を中心に、歌舞伎における「女鳴神」「女暫」「女団七」等、数多くの演目について情報を集め、分析し、現代歌舞伎や映画への影響も検討を進める。さらにジェンダー論の視点から「女俊寛」や「女影清」のような有名な男性主人公の女性親戚の主役(奥様や妹等)を趣向にした演目にも注目し、先行研究では果たされなかった「女」で始まる外題を全て調査する。絵入狂言本、絵本番付、台本、役者評判記、歌舞伎年表や歌舞伎年代記、また既刊の演劇事典や資料集等を根拠に各文庫や資料館を訪ね、歌舞伎関連文献を調査し、浮世絵(役者絵と芝居絵)、舞台写真、舞台ビデオなどの研究も進める。資料調査のため古典やくずし字のスキルアップ、芸能稽古をする。 現在的観点では日本中の祭りで演じられている民俗芸能のフィールドワークを進め、データベースの制作を検討する。成果を国内外の学会や国際日本文化研究センター共同研究「投企する古典性―視覚/大衆/現代」での研究会等で公表する。
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