研究実績の概要 |
前年度までの研究において, N=4超対称Yang-Mills理論における光円錐ベクトルからなる多角形を境界とするWilsonループの期待値を5角形演算子積展開の手法で評価し,そのflux tube励起状態へのスカラーの寄与が計算された. その結果, まずスカラー励起効果の寄与が古典的な寄与と同じくらい大きいことが予想外に発見された。この寄与は、2 個あるいは 4 個のスカラーの場合に具体的に計算され、さらに一般の 2n 項の寄与は SU(4) 行列因子についての Young 図の足し上げで実現され, まっ たく別の文脈で現れる Nekrasov-Okounkov による N=2 超対称ゲージ理論の分配関数の構 造と非常によく似ていることが見出された。 今年度はさらにフェルミオンの寄与を計算し、 論文"Fermions and scalars in N=4 Wilson loops at strong coupling and beyond"(arXiv:1807.09743[hep-th] 投稿中)において 以下の新しい結果が得られた。 (1) 6角形Wilsonループの期待値における, fermionの構造因子のSU(4)行列構造がスカラーと同様なYoung図のパターンで分類されることを発見した。これにより演算子積展開級数におけるfermionとfermionの新しい束縛状態(meson)を見出すことができた。 (2) さらに演算子積展開の級数におけるmeson同士の相互作用や, そのグルーオンやグルーオンの束縛状態の相互作用を考察し, 級数がAdS極小曲面の結果を再現する熱力学的ベーテ仮説方程式の結果を再現することを見出した。また1ループの寄与がmesonをインスタントンと同一視することにより今回の結果が4次元N=2超対称ゲージ理論におけるNekrasov分配関数と平行的になっていることが分かった。 以上の成果により多角形 Wilson ループの可積分構造について新しい知見がもたらされた。
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