研究実績の概要 |
芳香環の一つであるジベンゾフランに対し、ニッケル触媒を用いた炭素-酸素結合切断を伴うアリール化と、続くトリフルオロメタンスルホニル化、光照射下における環化を施すことでトリフェニレンへと変換できることを我々ごく最近報告した。しかし環化反応において高圧水銀灯の強力な光の照射が必要であるため、官能基許容性に乏しいという課題が残されていた。そこで、より温和な条件での環化反応実施を目指し、フォトレドックス触媒の可視光励起を利用した環化反応の検討を行った。しかし残念ながら目的化合物は得られなかった。1電子移動によりラジカルアニオンが生じる機構を念頭に置き、光励起状態における還元力がさらに強いイリジウム錯体を用いる必要があると考えられる。今回得られた知見をもとに、今後さらに検討を進めなければならない。 上記の研究を行う中で、フォトレドックス触媒の可視光励起と[3,3] シグマトロピー転位を組み合わせることで、新たな分子変換が可能になるのではないかと考えた。イリジウム触媒存在下、トリフルオロメチルスルホニウムとアルキンの混合物に対し可視光を照射すると、トリフルオロメチル基が置換したビニルカチオン中間体が生じ、これを系中のアリールスルフィドで捕捉することにより硫黄-酸素結合をもつ中間体が生じ、そこから[3,3] シグマトロピー転位によりアリールスルフィドのオルト位が官能基化された生成物が得られると想定した。このような作業仮説のもと様々なフォトレドックス触媒とアリールスルホキシドを用いて目的反応の検討を行った。その結果、中間体の生成までは進行するものの、スルホキシドによる中間体の捕捉がうまく進行していないことが判明した。スルホキシドより求核力の高い有機硫黄化合物を用いて今後検討を行う予定である。
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