研究課題/領域番号 |
16F16761
|
研究機関 | 国立研究開発法人物質・材料研究機構 |
研究代表者 |
森 利之 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 上席研究員 (80343854)
|
研究分担者 |
REDNYK ANDRII 国立研究開発法人物質・材料研究機構, エネルギー・環境材料研究拠点, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2016-10-07 – 2019-03-31
|
キーワード | 酸化物蒸着 / 界面活性化 / 酸化物形燃料電池 / 中温域動作 / アノード / 微細構造観察 / 表面欠陥構造シミュレーション |
研究実績の概要 |
低炭素社会形成の必要性から、空気と水素から、高い発電効率における発電を可能にする固体酸化物形燃料電池開発に、再び期待が集まっている。しかし、スタックセルに金属を用いる温度では、高い性能が発揮できず実用時期は、まだ先であると考えられてきた。さらに従来の研究では、最も遅いとされるカソード上の酸素還元反応活性を高め、発電性能向上の検討を行うことが主流となっていた。 一方、受け入れ研究者(森)は、700℃から800℃における動作温度では、セル作製過程において、アノード層中に生じる超構造の影響から、発電特性の低下をもたらすリスクがあることを、微細構造観察を通して世界に先駆けて提唱してきた。そこで、特別研究員Andrii Rednyk博士と共同で、3相界面近傍における超構造形成による発電性能低下を、補って余りある発電性能改善を可能にする、アノード界面欠陥構造の設計と創製を行うことを目的とし、超微少量(10から100ppm (=mgKg-1))の白金酸化物ならびに白金族金属酸化物を、アノード層上に蒸着したのち、水素還元処理を行うことで、これら蒸着酸化物から、活性なカチオン種をつくりだした。さらに、アノード層を構成する安定化ジルコニアとNi界面近傍において、Ni表面上にわずかに残存する酸素及び酸素欠陥と、上記の活性なカチオン種を反応させ、Ni表面に疑似蛍石表面構造をもつ領域をつくり、安定化ジルコニア表面からNi上の疑似蛍石表面までの広域な範囲における酸素表面拡散現象の促進と、アノード活性の向上をはかった。 次に、上記手順で作成した試料のカソード及びアノード過電圧測定を行った後に、アノード層内における界面欠陥構造の観察及び、この微細構造観察に基づく表面欠陥構造シミュレーションを実施することで、上記の取り組みの妥当性を確認するとともに、アノード性能の飛躍的改善に成功した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アノード層内のNi表面上の残存酸素原子、Ni表面の格子欠陥及び極微少量(10から100ppm (=mgKg-1))の白金カチオン(Pt2+)や白金族金属カチオン(Rh3+,Pd2+,又はRu2+)からなる欠陥構造クラスターを、Ni表面上に形成させるプロセスを提案し、燃料電池動作温度700℃の温度において、顕著な電極性能改善効果を、電流遮断法を用いたIR-フリーの測定により確認した。このIR-フリー改善効果は、カソード過電圧の変化をはるかに超えるものであったことから、アノード過電圧低減による効果であったことも、すでに確認することができた。 こうして形成されたアノード層内界面の活性サイトのキャラクタリゼーションは、主として分析透過電子顕微鏡による微細構造観察により行い、この微細構造観察結果を基に、ワークステーションを用いて実施した表面欠陥構造シミュレーションにより得られたモデルから、アノード層内における安定化ジルコニアに隣接するNi表面において、残存酸素原子、Ni表面の格子欠陥及び上記活性なPt2+やRh3+,Pd2+,又はRu2+からなる疑似蛍石表面が形成される可能性があること。さらには、アノード層内安定化ジルコニア表面でのみおきていた酸素表面拡散現象が、このNi上の疑似蛍石表面においても可能なものとなり、結果として安定化ジルコニア表面からNi表面におよぶ広範囲な表面で、燃料電池アノード反応である水の生成反応の促進と、これに伴う燃料電池から発生する電流密度の改善がなされた可能性があることが分かった。 この成果は2017年8月27日から9月1日の間、国内で開催され国際会議IUMRS-ICAM2017において、特別研究員Andrii Rednyk博士により発表され、特別研究員Andrii Rednyk博士は、若手奨励賞を受賞するという高い外部評価を得た。
|
今後の研究の推進方策 |
本年度は、これまでに極微量(10ppmから100ppm程度)の白金酸化物や白金族金属酸化物を用いてアノード層内3層界面近傍に作製してきた、高い活性を有する独自の欠陥構造クラスター活性サイトを、白金カチオン(Pt2+)や白金族金属カチオン(Rh3+,Pd2+,又はRu2+)と同程度のイオン半径を有するFeカチオン(Fe2+またはFe3+)、Mnカチオン(Mn2+, Mn3+ 又はMn4+)及びZnカチオン(Zn2+)を用いて作製することを目的に、これら少量の典型元素の酸化物を、蒸着法によりアノード層上に少量蒸着したのち、通常アノード層を活性化する為に行う、水素によるアノード層活性化プロセスを利用して、蒸着した微量酸化物を還元的に分解することで、3相界面近傍における新規な活性サイトの形成を目指す。 この取り組みにより、極微量といえども高価は白金元素や白金族金属元素を用いて、はじめて作成が可能であったアノード中の欠陥構造クラスター活性サイトを、安価でかつ資源豊富な典型元素の微量蒸着・水素還元処理により作成することが可能になる。 以上の取り組みを通して、実用的な中温域動作燃料電池の高性能化に資するアノード界面構造の設計・創成、ならびに発電性能評価による実証を行う。さらに今年度前半までに、これまでの研究成果を、特別研究員Andrii Rednyk博士筆頭による論文として発表し、上記の燃料電池分野における先端研究成果を国際社会へ発信する。
|