研究課題/領域番号 |
16F16770
|
研究機関 | 国立天文台 |
研究代表者 |
大橋 永芳 国立天文台, ハワイ観測所, 教授 (50747491)
|
研究分担者 |
CATALDI GIANNI 国立天文台, ハワイ観測所, 外国人特別研究員
|
研究期間 (年度) |
2016-11-07 – 2019-03-31
|
キーワード | がか座ベータ星 / デブリ円盤 / 中性炭素原子ガス / ALMA望遠鏡 |
研究実績の概要 |
平成29年度は、主にALMA望遠鏡を用いたがか座ベータ星周囲のデブリ(残骸)円盤の観測データの詳細な解析を行い、査読論文化することに主に集中した。若い星の周囲に形成される円盤には、豊富なガスと塵が存在するのに対して、主系列星の周囲に存在するデブリ円盤には、通常、ガス成分は存在せず、円盤中の小惑星や彗星の衝突により、2次的に生成された塵のみが存在する。しかしながら、デブリ円盤の中には、2次的に生成されたガスが僅かに存在するものもある。ベータ星周囲のデブリ円盤は、そのようなガス成分を伴う数少ないデブリ円盤の一つである。 以前のALMAの観測から、この円盤には一酸化炭素分子が存在し、その分布はクランプ状で円盤の片側に強く存在するという、非常に強い非対称性を示すことが分かっている。この観測から、一酸化炭素分子ガスのクランプ状構造は、そこで一酸化炭素分子ガスが局所的に、未発見の惑星等との衝突により生成されたことが示唆された。 デブリ円盤中の一酸化炭素分子は、約五十年という極めて短い時間で、中心星からの輻射により破壊され、中性炭素原子と中性酸素原子が生成される。我々はALMAを用いて、ベータ星デブリ円盤中の中性炭素原子を検出し、その空間分布を明らかにすることに成功した。デブリ円盤中の中性炭素原子の空間分布が明らかにされたのは、これが世界で初めてである。この観測から、中性炭素原子の分布は、一酸化炭素分子ガスの分布と非常によく似た非対称性を示すことが明らかとなった。一酸化炭素分子から生成された中性炭素原子ガスは、大変安定に存在するため、中性炭素原子ガスでこのような非対称性が見つかることは、全く予想外の結果である。このことから、上記の一酸化炭素分子ガスの起源は否定された。これに代わるシナリオとして、円盤内のガスと塵が共通の近日点を有するエキセントリックな軌道上に分布している可能性を提案した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ALMA望遠鏡の観測からがか座ベータ星周囲のデブリ円盤内の中性炭素原子ガスの空間分布を、明らかにすることに成功した。デブリ円盤内の中性炭素原子ガスの空間分布を明らかにしたのは、これが世界で初めてである。さらに、先行研究で示唆された、同デブリ円盤内の一酸化炭素分子ガスの起源を否定することができた。この研究の学術的意義は極めて高いと考える。この結果はCataldi氏が主著者で査読論文として投稿され、現在、レフェリーとのやりとりをしている段階である。また、この研究と相補的な関係にある、がか座ベータ星周囲のデブリ円盤内の水分子の起源の研究においては、Cataldi氏が輻射輸送の計算から水分子質量の上限値を与えた。 これらの研究以外には、Cataldi氏がPIの観測プロポーザルが、ALMA望遠鏡と、JCMTサブミリ波望遠鏡でそれぞれ、一件づつ採択された。ALMA望遠鏡のプロポーザルは、がか座ベータ星周囲のデブリ円盤と同様の中性炭素原子ガスの観測を別のデブリ円盤で行うという内容であり、観測が成功すれば、世界で2例目の、デブリ円盤内の中性炭素原子ガスの分布を得ることができる画期的なものである。残念ながら、現段階では観測はまだ実行されていない。 これ以外には、3つの国際会議での発表を行った。このうち一つは組織委員会のメンバーとして会議の運営にも貢献した。また2つの発表は招待講演であった。
|
今後の研究の推進方策 |
引き続き、ALMA望遠鏡を用いた観測を軸に研究を展開する予定である。そのために、新たなALMAを用いた観測プロポーザルがすでに採択されている。このALMA望遠鏡のプロポーザルは、がか座ベータ星周囲のデブリ円盤と同様の中性炭素原子ガスの観測を別のデブリ円盤で行うという内容であり、観測が成功すれば、世界で2例目の、デブリ円盤内の中性炭素原子ガスの分布を得ることができる。また観測とは別に、がか座ベータ星で得られた結果をさらに考察するためには、理論シミュレーションが必要となる。現在、理論家との共同研究を進めており、我々の観測結果から示唆された円盤内の潮汐力による破壊が、実際に観測で得られたような非対称の一酸化炭素分子ガスと中性炭素原子ガスの分布を再現するのか調べる予定である。さらに、新たなALAM望遠鏡の観測提案(がか座ベータ星周囲のデブリ円盤内の高励起中性炭素原子ガス輝線の観測)を提出する予定である。 一方、がか座ベータ星のデブリ円盤内の酸素の起源の研究に関しては、質量を正確に求めることが要求される。輻射輸送の計算から質量を推定することは可能ではあるが、円盤内の電子密度がこれまでは求められていなかったため、正確に中性酸素原子ガスの質量を求めることは困難であった。しかしながら、我々の中性炭素原子ガスの観測結果を用いれば、円盤内の電子密度を求めることが可能となり、その結果、中性酸素原子ガスの質量を求めることも可能となる。 現在投稿中の査読論文は近く出版されると思われる。今年度は、上記のフォローアップの研究を進め、査読論文化する。
|