研究課題/領域番号 |
16F16783
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
平川 一彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (10183097)
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研究分担者 |
YANGUI AYMEN 東京大学, 生産技術研究所, 外国人特別研究員
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研究期間 (年度) |
2016-11-07 – 2019-03-31
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キーワード | 固体冷却素子 / ヘテロ構造 / 量子構造 / 共鳴トンネル / 熱電子放出 |
研究実績の概要 |
現代のLSIに代表されるエレクトロニクスの進歩を大きく阻んでいるのが発熱による問題であり、冷却技術は将来のエレクトロニクスの発展の鍵を握る技術と言っても過言ではない。我々は半導体へテロ構造のバンド構造を適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できるサーミオニッククーリング技術に注目している。サーミオニッククーリングにおいては、トンネル障壁を介して量子井戸に低エネルギーの電子が共鳴的に注入され、量子井戸を出るときには低くて厚い障壁を高エネルギーの熱電子が熱的に越えていく過程を用いる素子であり、電流を流すにつれて量子井戸層が冷却されていくデバイスである。 本年度は、理論提案に従って非対称な障壁厚さを有する共鳴トンネルダイオード構造を分子線エピタキシー法により成長し、その電流-電圧特性を測定した。当初の予想よりも大きな電流が素子に流れるため、測定がやや困難であるが、素子のコンダクタンスに現れる特徴を解析することにより、量子井戸中の準位の観測などが可能になりつつある。また、冷却されるのが量子井戸層なので、量子井戸層からのフォトルミネセンスを測定することにより、電子温度の評価を試みている。さらに、当初の計画にある、我々が開発したMEMS温度計とサーミオニッククーリング構造との集積については、素子構造を検討している段階である。 また、マルセイユ大学の理論グループと共同研究を開始し、サーミオニッククーリングにより、電子系と格子系がどの程度冷却されるのかについて、非平衡グリーン関数法を用いて理論計算を行い、実験との比較を予定している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、理論提案にある非対称な障壁厚さを有する共鳴トンネルダイオード構造を作製し、その電流-電圧特性の評価を開始した。当初、予想していたよりも素子抵抗が低く、素子に大電流が流れるため、評価が予想以上に難しいことがわかった。現在は、再現性のある素子作製プロセスを確立するとともに、コンダクタンス-電圧測定より、量子井戸中の量子準位の観測ができるようになった段階にある。 また、マルセイユ大学との共同研究から、格子温度よりも電子温度の冷却の方が大きいため、フォトルミネセンスの測定から、電子温度の評価を行うことを計画し、素子の設計を行っている段階である。初期的なフォトルミ測定では、量子井戸からのキャリアがエミッタ電極に抜け出ることと、エミッタ電極からの強い発光が、量子井戸からの発光を隠している可能性があることがわかってきた。 一方、当初に計画した、我々が開発したMEMS温度計との集積に関しては、サーミオニッククーリング素子に流れる電流が非常に大きいので、単純な集積が困難であることがわかってきた。この問題に関しては、現在、検討中である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の予想よりも、素子を流れる電流が大きいので、温度の測定が予想より困難であることがわかった。そこで、以下の方針で研究を進めていく予定である。 1)フォトルミネセンスによる電子温度の評価:現在、量子井戸からのフォトルミネセンスの測定が難しい理由が、トンネル障壁を通ってキャリアがリークすることと、エミッタ電極層の発光が強く、量子井戸からの発光を隠してしまうことにある。そこでエミッタ層にAlを添加し、バンドギャップを広げて、2つの問題を同時に解決することを予定している。 2)MEMSを用いた格子温度の評価:当初計画したMEMSとの集積構造では、サーミオニッククーリング素子を流れる電流そのもので構造が加熱されてしまう恐れがあるため、光学的な方法によるMEMS共振周波数の評価を用いることにより、問題を克服できないか検討する。また、やや原始的な方法であるが、10ミクロン程度の極微細熱電対を用いて、直に温度の計測することも検討しており、様々な方法で温度の評価を試みる。 3)上記の実験がにより電子温度と格子温度の比較を行い、非平衡状態での電子-格子相互作用について検討する。 4)マルセイユ大学の共同研究者が、本年9月より2年間本学に滞在する予定であり、さらに緊密に理論と実験の比較を行い、サーミオニッククーリングの原理実証と素子構造の最適化を目指す。
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