現代のLSIに代表されるエレクトロニクスの進歩を大きく阻んでいるのが発熱による問題であり、高効率冷却技術の開発はエレクトロニクスの発展の鍵を握る技術である。我々は、高い冷却効率を実現することを目指して、半導体へテロ構造のバンドを適切に設計し、熱電子放出と共鳴トンネル効果を同時に制御して実現できる熱電子放出冷却技術に注目して研究を行った。本素子構造では、トンネル障壁を介して量子井戸に低エネルギーの電子を共鳴的に注入し、量子井戸を出るときには低くて厚い障壁を高エネルギーの熱電子が越えていくという過程で電子が伝導し、電流を流すにつれて量子井戸層の電子系が冷却されていく素子である。本研究では、非対称二重障壁ヘテロ構造において、量子井戸内の電子温度が低下することを観測し、熱電子放出冷却効果の原理を確認することを目的とした。 バイアス電圧の関数として試料のフォトルミネセンス(PL)を測定したところ、GaAs電極層からの発光と量子井戸層からの発光を明瞭に区別して測定することに成功した。各PLピークの強度を対数表示して、高エネルギー側のテールの傾きより、電子温度をバイアス電圧の関数として求めた。その結果、1)電極からの発光に関しては、バイアス電圧の印加によらず、電子温度はほぼ300 Kで一定であること、2)一方、量子井戸中の電子温度は、バイアス電圧の印加とともに減少し、最大の共鳴トンネル電流が得られる条件では250 Kまで低下し、室温でも約50 Kと言う大きな電子冷却効果が得られることを明らかにした。 共鳴トンネル効果を用いたヘテロ構造熱電子放出冷却効果を電子温度の低下という形で証明できたのは世界初の成果であり、固体冷却素子に新たな可能性を提供したと言うことで大いに意義がある。本成果は、数件の国際会議発表とともに、論文にまとめて、Nature系姉妹誌において査読中である。
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