高強度鋼板のプレス成形における焼付き現象をマクロスケールから原子スケールまで階層的に解明し、ミクロスケールでの焼付き機構に基づいてマクロスケールでの焼付き条件の定式化を行う。車体軽量化を実現するための超高強度鋼板の使用量が増加の一途を辿っているが、超高強度鋼板の冷間プレス成形において、スプリングバックと焼付きの抑制が技術的な課題となっている。最近使われ出したホットスタンピング成形の最重要な課題は金型への鋼板めっき層の移着となっている。金型への焼付きを抑制するために、異なる材質の皮膜を金型表面に被覆する技術が一般的に使われているが、材質選択はトライ結果に頼っている。本研究では、ミクロスケールの解析結果に基づいて、被加工材の材質に適合する金型材質を抽出する。 本年度は、高強度鋼板の冷間成形によく用いられる各種硬質皮膜を用いて摩擦試験を行い、ミクロスケールでの焼付き起点を電子線凹凸顕微鏡を用いて観測を行った。その結果、金型表面上の焼付きは、表面の微細凹凸に起点とするものと、表面の平滑部から発生するものの2種類が存在すること、表面凹凸から始まる焼付きの成長は比較的に緩やかに成長することが判明した。VC皮膜を用いた実験では、焼付きの成長はミクロスクラッチから始まり、ミクロ凝着に成長し、最終的にはアブレシブ摩耗に至る。さらに固体潤滑剤による薄膜潤滑の場合、焼付きを抑制するために、金型がある程度の表面粗さを持った方が有効であることが判明した。
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