ソフトマターの最大の特徴は、幾重にもわたる動的階層構造にある。我々は、たんぱく質に代表される一見のろまな生体物質が多様で優れた機能を効率的に発現する鍵は、大きな自由度を階層的に内包した系に特有な協同的機能発現の様式にあると考えている。この協同性、即ち階層間の動的結合を担う最も本質的かつ重要な因子は、最低次階層を担う液体の流動性であると考えられるが、その具体的な役割は、非局所性に起因した困難さのため未解明のままであった。また我々は、従来の常識に反し、液体自身にも動的階層性が普遍的に存在し、それこそが液体における未解明の問題を解き明かす共通の鍵であると考えている。そこで本研究では、動的階層構造という概念に主眼を置き、ソフトマターや液体(多自由度・階層系)における動的結合と協同的機能発現の基本原理を明らかにすべく、我々が開発した実験・シミュレーション手法を駆使し研究を行ってきた。本年度の主な研究成果を述べる。(1)コロイド分散系の過冷却液体中に中距離的構造秩序が形成され、ガラス転移点に向かってそのサイズが増大することを、ブラウン動力学数値シミュレーション、単粒子レベルの観察が可能なレーザ走査共焦点顕微鏡観察により明らかにすることに成功。(2)過冷却液体の粘性輸送の非局所性を初めて明らかにした。(3)ガラス転移点近傍の液体の不均一流動の起源を明らかにした。これは、破壊の予測につながる成果である。(4)コロイドゲルの形成で、これまで重要とされなかった溶媒の流体力学的相互作用が極めて重要であることを示した。(5)高分子の凝縮ダイナミクスにも流体力学的相互作用が重要な影響を与えることを見出した。(6)液体-液体転移において、臨界ぬれ現象を発見すると共に、光誘起転移の実現に成功。
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