研究概要 |
天然由来の生物活性物質の構造や機能には,時として我々の想像をはるかに超える斬新なものが見られる.本研究ではフィールドにおけるダイナミックな生物現象に着目した物質探索により画期的な新分子を発見し,物質探索の新機軸を打ち出すことを目指した. 共生,寄生現象に関与する物質探索では,現地大学の協力のもと,グアムのサンゴ幼生の変態誘引物質の研究を実施した.これまでに解明した沖縄産タヤマヤスリサンゴの誘引物質11-deoxyfistularin-3には効果が見られなかったことから,活性物質は種ごとに異なるという知見を得た. 食物連鎖ダイナミズムに着目した物質探索においては,共生藻由来のポリオール化合物シンビオジノライドおよびデュリンスキオールのエーテル環付近の立体構造を決定した.全立体化学の解明および生物活性評価のため合成研究を行い,シンビオジノライド側鎖の炭素骨格を構築した. 天然毒の研究に関しては,MSMS分析の詳細な解析により,カモノハシ毒に含まれる極微量ペプチド化合物を同定した.また粗毒がCaチャネル開口作用を示すことを初めて見いだした.またブラリナトガリネズミから単離したタンパク毒ブラリナトキシンの無細胞系発現システムにおけるリコンビナント実験により,標的分子量のタンパク質発現に成功した. 化合物の詳細な活性評価においては,VCAM-1の産生抑制効果が知られていたクロイソカイメン由来のアルカロイド,ハリクロリンが,血管内皮細胞と血球細胞との接着を阻害することを見いだした.一方TNF-α、IL4の受容体結合作用には影響しないことから,本化合物がVCAM-1産生に関わる細胞内シグナル伝達の阻害をしていることが示唆された.また,カワラタケ由来の脂肪細胞の分化抑制活性を示す環状ペプチド,テルナチンについては大量合成を行うとともに,高脂肪食肥満モデルマウスにおいて体重増加の有為な抑制効果を示すことを見いだした.
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