細胞の機械刺激受容・応答能は生命現象を支える根幹機能であり、基礎生物学だけではなく、医学の発展に欠かせない極めて重要な研究対象である。しかし、機械刺激の受容から応答に至る細胞内分子機構は全く未解明の状態である。本研究の目標は、最近同定されたSA(伸展刺激活性化)チャネルを対象に、1)SAチャネル活性化(開閉)機構の解明、2)機械受容における細胞骨格の役割解明、特に力の方向(ベクトル)センサーであることの検証、および、3)新規SAチャネルブロッカーの設計合成を目指し、"メカノバイオロジー"という新領域の基盤形成を行うことを目標にしている。本年度は以下のような成果が得られた。1)高次構造(閉構造)が判明している細菌SAチャネルMscLやMscSに関して、これまで点突然変異法を用いて膜張力の感知部位等を決定してきたが、加えて分子動力学計算によっても実験的解釈を支持する結果が得られた。すなわち、張力感知アミノ酸残基が脂質と特異的に強く結合し、張力増加に伴いその残基を含む膜貫通ヘリックスが膜面方向に倒されながらチャネルが開口する様子がシミュレートできた。2)MscLの活性化剤である両親媒性物質クロルプロマジンのMscLのゲーティング機構に対する作用を詳細に検討した結果、メカノセンサー部位とチャネルゲーティング部位の連関に関する重要な知見が得られMscLの開口にはメカノセンサーが必須であることを見出した。3)高等生物(血管内皮細胞)では、細胞骨格(アクチン線維)そのものが、内部張力の程度に応じてコフィリン存在化で崩壊する機械センサーとして機能することを見いだした。4)開発した還流心モデルを使って、疫学調査を参考に既存薬物のスクリーニングを行い、ある種のスタチンが心房細動に対し急性抑制効果を有することを見いだした。
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