哺乳動物における組織形成の理解には、細胞自体の性質や挙動だけでなく、それらを制御しつつ形態形成に関わる細胞外マトリックス(ECM)の、時間的-空間的挙動への理解が必須と考えられる。Rasがん遺伝子で悪性転換したNIH3T3細胞を正常復帰させる遺伝子として単離されたRECKは、複数のECM分解酵素群(MMPファミリー)を制御する新規膜結合型(GPI-アンカー)タンパク質をコードし、遺伝子欠損マウスの解析から、血管発生やECMの維持に必須の遺伝子であることが明らかにされている。また、その発現異常が、、がんを始めとする多くのECM異常を伴う疾患に関与することが示唆されている。しかし、RECK欠損マウスが胎生致死形質を示すことから、発生後期から成体期におけるRECKの機能は未だ明らかにされていない。本研究課題では、RECKの機能解明を通してECM制御のメカニズムと正常個体および病態におけるECMの役割に洞察を加えることを目的としている。平成21年度は、RECKタンパク質の性状、細胞レベルでの機能、RECK遺伝子の発現制御機構などに関する成果を発表した。すなわち、RECKタンパク質は釣り鐘状の2量体を形成し、MMP7(触媒ドメインのみからなるMMP)によるfibronectin分解を阻害すること、RECKは線維芽細胞において細胞移動のdirectional persistenceに重要であること、RECKの発現が細胞密度、血清濃度、酸素濃度などによる制御を受けること、またその際に働く分子経路などを明らかにした。
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